自分に、他者に、「歩み寄る」姿勢を描く

 著者の谷口菜津子は、第1巻のあとがきでこう書いている。「私は時代とともに変わり続ける価値観にいつまでついていけるのだろうか」「海老原勝男とともに反省や挑戦を繰り返して、なんとかより良い自分でいる努力を続けていきたい」と。つまり『じゃあ、あんたが作ってみろよ』の本質は、歩み寄りと成長にある。

 歩み寄りと成長。対話と相互理解に必須なのは、相手を「知ること」だ。先日実写化されたマンガ『Shrink―精神科医ヨワイ―』(原作/七海仁 マンガ/月子)の「アンガーマネジメント編」では、文学青年が上世代の父親によってパワハラ気質になってしまった――というバックストーリーが描かれる。我々が「ハラスメントおじさん」と敬遠する人々もまた、時代や社会の被害者かもしれない。『わたしたちは無痛恋愛がしたい 〜鍵垢女子と星屑男子とフェミおじさん〜』(著:瀧波ユカリ)では痛みのない人間関係を築こうと努力する人々の姿を見つめ、芸術と性加害/搾取をテーマにした『恋じゃねえから』(著:渡辺ペコ)は安易な解決を許さず、関係者や周囲が考え続ける過程に徹底的に付き合う。

 先日約10年の歴史に幕を閉じた『僕のヒーローアカデミア』(著:堀越耕平)もまた、世間を脅かす敵(ヴィラン)をただ暴力で屈服させるのではなく、「その奥にある原点=心に触れようとする」主人公たちの姿を描き続けていた。ジャンルはそれぞれ違えど、いまを生きる読者の心を掴む作品には、「相手を知り、変わろうとする人々の努力」が込められている。だからこそ、応援したくなるのだろう。その系譜にある『じゃあ、あんたが作ってみろよ』が今後、どのような成長をしていくのか、引き続き見守っていきたい。

『じゃあ、あんたが作ってみろよ』

谷口菜津子 ぶんか社 各880円 既刊2巻
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SYO

映画ライター・編集者。映画、ドラマ、アニメからライフスタイルまで幅広く執筆。これまでインタビューした人物は300人以上。CINEMORE、装苑、映画.com、Real Sound、BRUTUSなどに寄稿。X:@syocinema