男とか女じゃなく、「本当の私」でわかり合えたら……この作品がいま支持される理由とは?

 2022年に発足した「CREA夜ふかしマンガ大賞」。「慌ただしい日常を送る大人の女性たちが、自分のためだけに使える深夜のわずかな時間に読み、豊かな時間を過ごさせてくれるマンガ」をコンセプトに、作家・編集者・ライター・書店員等のマンガ通が選者となり合計巻数が5巻までのフレッシュな作品を表彰してきた。第1回(2022)は『まじめな会社員』(著:冬野梅子)、第2回(2023)は『いやはや熱海くん』(著:田沼朝)が大賞を受賞。そして第3回となる本年度は、『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(著:谷口菜津子)が選考委員31名によって選出された。

 本作は、2023年にcomicタントにて連載を開始。同年12月に単行本第1巻、2024年8月に第2巻が発売されたばかりのまだまだ新しい作品だ。5巻までという縛りはあれど、ここまでのスピード受賞を達成したのは、やはり作品力の高さによるものだろう。では何が選者はもちろんのこと、いまを生きる人々の心を掴んでいるのか?

呪いから解放されていく

 大学のミス&ミスター同士で付き合ったカップル、鮎美と勝男。勝男は付き合って6回目の記念日に鮎美にプロポーズするが断られ、さらに彼女は同棲中の家から出て行ってしまう。傷心の勝男は、周囲に「昭和脳」と揶揄される自身の古い価値観に気づき、料理を通して少しずつアップデートを図っていく。そして鮎美もまた、新たな人間関係を通じて“男に選ばれる生き方”という呪いから解放されていくのだった。本作はダブル主人公のような形で、別れた後の男女が生き直していく姿をそれぞれの視点で交互に描写する構造になっている。

 『じゃあ、あんたが作ってみろよ』というパンチの利いたタイトルからして、昨今のマンガの人気ジャンルの一つ「モラハラ男/夫もの」という第一印象を抱くかもしれない。実際第1話の導入は、せっかく作ってもらった手料理に対して褒め称えて「いつもありがとう」と感謝を述べながらも、「しいて言うなら 全体的におかずが茶色すぎるかな?」と鮎美にダメ出しをする勝男のセリフから始まる。まさに「じゃあ、あんたが作ってみろよ」と言いたくなるようなシーンだが、鮎美は「ごめんなさい」と従う。

2024.10.12(土)
文=SYO