この記事の連載
- 『ようやくカナダに行きまして』#1
- 『ようやくカナダに行きまして』#2
心は毎回折れます
――カナダのおおらかさというかいい加減さと、光浦さんの几帳面な性格はどうやって折り合いをつけていったんだろうと思いました。
光浦 本に書かれてることは今から2年前、3年前の話になるんで、今の自分だったら「はいはいはい、あるある」「まあまあ、カナダですからね」て言ってた人たちのセリフが理解できるんですけどね。
私変わったなって思いますよ。日本だったら配達1つでも「何月何日の何時」って指定したら「何月何日の何時」に全てが行われるじゃないですか。でも日本が特別なだけで、世界基準ではないんですよ。
――確かに……「12時〜14時」で指定して、その時間に来なかったらちょっとイライラしてしまいますけど、よくよく考えたらオンタイムに来るのがすごいことですよね。
光浦 そうそう、そんなのは奇跡なんだと思って。日本が素晴らしすぎる。やりすぎぐらいなのかもしれない。カナダには再配達なんてないし、不在届もピンポンも鳴らさずただ玄関の外にペタって紙が貼ってあって、自分で集積所に取りに行かなきゃいけないんです。
アパートで蛇口が閉まらなくて、 直してくださいってマネージャーに連絡してもまず無視。本に出てくる前のマネージャーは本当にいい方で、今のマネージャーはしつこくしつこく連絡してやっと返事が来る。それで「じゃあ明日行く」って言うから待っていると、来ない(笑)。基本そんな感じなんですよ。
――心は折れなかったですか。
光浦 毎回折れます(笑)。
――「帰りたい」ってなることは……
光浦 なかったですね。テレビの仕事をしてないので、そのストレスがないから。留学中はそのストレスの部分を全部生活に使えました。ただの学生だから、時間はあるわけで。1日かけてタスクを1個こなすって感じです。連絡を取るとか、ビザの書き換えだとか。これでもしテレビの仕事もしていたら、たぶん無理だったはず。
どんなことでも「1回乗っかろう」
――留学先でできたお友達の話もとても面白かったです。特にコロンビア人のヘレナさんがすごく印象的で。学生時代には女友達との関係に悩んでいたと本にもありましたが、ヘレナさんとの出会いによってその辺りも変化があったのでしょうか。
光浦 そうですね……ずいぶん変わりました。ほんとに最初で最後ですよ、あんな友達。ヘレナが特別だったんだなって思います。ヘレナはどんな人でもとりあえず1回受け入れて、そこから仲良くなる人を選ぶっていう人で。
――1回受け入れる。
光浦 すごい尊敬しましたね。ああこの人はできるなと思ったのが、パーティーの時。「ヘレナに出会う」の章で書きましたけど、英語ができない人、初めてこっちに来た人……そういう孤立してる人たちがしゃべりやすいように「みんなでダンスをしよう!」って自然にそういう空間を作ってくれるんです。それもいやらしい感じじゃなくて、ガサツに、なんなら命令系で。「はい、ダンス」「はい、テキーラ」みたいな。 できるなこの人って本当に思いましたね。
――ヘレナさんによって自分も少しずつ変わっていく感覚がありましたか。
光浦 ありましたね。どんなことでも「1回乗っかろう」って。とにかく、カナダ行ってからは誘いは断ってないです。
2024.10.12(土)
文=西澤千央
撮影=深野未季