「夢に賞味期限はない」
――ある意味で人間らしいタイプですよね。カイちゃんが恋愛にもがく一方で、子持ちの親友は、一般論を言ってくる。
世の中でよく聞く正論について、「でも」と思う気持ちで描きました。「愛してくれる男の人と付き合う方がいいよ」っていうのは、実際そうかもしれないとなんとなくは思うんですよ。年齢とともに痛感します。でも、そんな相手いないんだけど、みたいな。今欲しいのは正論じゃないんですよね。
――ほかにはどのような反響が?
とにかく入り込んで読んでくれる読者の方が多くて、本気で怒ってくれたり、悲しんでくれたり、すごくカイちゃんを見守ってくれています。話としては恋愛がメインで、女性特有なのかなと思うような感情表現も多い漫画ですが、男性の方もたくさん読んでくれていて。サイン会では50代ぐらいの男性の方が来てくれて、カイちゃんに自分を重ねて読んでいると話してくれて嬉しかったです。年齢や性別は関係なく人間だからある感情なんだなって読者の方の感想でより気付かされます。バイト先の同僚・千林くんが好きという意見も多いですね。
――千林くんは夢を追っているキャラクターです。漫画のタイトル『恋とか夢とかてんてんてん』の夢の部分を現状担っている存在ともいえますね。これからカイちゃんの夢についても描いていくことになると思うのですが、先生の現状の「夢」に対する心構えを知りたいです。
やりたいことがあるなら突き進むべきで、基本的に賞味期限はないと思います。ただ、もういいかなって思っているなら、無理にやることもないのかなって思いますね。恋愛と同じように、生きる糧という捉え方もできると思います。夢なんかないっていう人も結構いるし、それを全く否定しない。でも、私も夢なのか分からないけど、漫画を描きたい、漫画家になりたいという思いがあったから歩いてこれた感じがします。どんな小さなことであっても、やりたいことがあるのはすごく幸せなことだなと思います。
――漫画家になれた今は、夢の続きを生きている感じでしょうか。
そうかもしれません。でもやっぱり理想の自分みたいなものからはまだほど遠いというか、なりたい自分像って永遠に追い続けるものなのかもしれませんね。
――これからどうなっていきたいか、イメージはありますか?
漫画を描くからには、売れたいですね。今は、連載漫画を描くということは、肉体的にも精神的にもこんなにきついんだと実感しています。売れなくても読んでくれている人がいるのはそれだけでもとても幸せなことですが、やっぱり売れたい。
――作品の中で、現状で一番思い入れのあるシーンはどこですか?
2話の、自転車で走り出して橋を疾走するシーンです。恋の最初の方に一度だけしか訪れない、最高にスパークする瞬間。この世のすべてがきらめいて、すべてを好きになれる瞬間を描けたなと思います。
――現在も絶賛連載中ですが、次に描きたいテーマはもうあるんでしょうか。
まだ考えられていないのですが、本当に恋愛漫画って描くのが難しくてつらいし、めちゃくちゃ恥ずかしいんですよね。だから次回作は恋愛からちょっと離れたいですね。だからこそ、今は自分が描ける恋のすべてをこの漫画で描き切ってやるぐらいの気持ちで『恋てん』を描いていきたいです。
――最後に読者の方にメッセージをお願いします。
いつも応援してくださってありがとうございます。ダメな部分が多い主人公のカイちゃんをこんなにも応援してもらえたり近しい友達のように見守ってもらえるとは連載前には思っていなかったので、熱い気持ちやメッセージにとても励まされています。読者の方がカイちゃんを置いて先に行ってしまっても良い、だけどカイちゃんは読者の方を置いてかないぞーという気持ちで描いています! 一緒に生きていきましょう!
世良田波波(せらたなみなみ)
兵庫県明石市出身。18歳で上京し、その後紆余曲折あり大阪で暮らす。現在は東京都在住。2006年に『アックス』(青林工藝舎)にて誌面デビュー。『恋とか夢とかてんてんてん』が初連載となる。
『恋とか夢とかてんてんてん』
既刊2巻 各1,100円 マガジンハウス
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