「TEELさんですよね」
足が止まる。
あらためて見直してみても知らない顔だった。浅黒い肌が、長めに伸ばした黒髪と合わせて闇に溶け込む中、細い眼が輝きを見せている。唇の端を上げているが、笑顔で隠し切ることのできない鋭利さがどこか漂っていた。何かを決意しているようだが、その中身が読み取れない。緩い単色のTシャツにチノパンというシルエットも、単に没個性的というわけではなく、真の姿を隠そうとしているような不穏さがある。TEELはハンドルを握る拳を固くした。
「怪しい者ではないです」
「まあ、不審者は俺の方だろうな」
TEELが握ったままだった缶の頭を摑み、振り子のように揺らすと、男は「いえ」とシャツをめくり、ウェストバッグのジッパーを開けた。
「それについては、俺もそうなんで」
TEELは目を見開いた。男がバッグから取り出したのはHEDと書かれたステッカーの束だった。
「ちょっと、お話しさせてくれませんか?」
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イッツ・ダ・ボム
定価 1,650円(税込)
文藝春秋
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2024.09.14(土)