医療、特に高齢者医療に長いあいだ関わっていますと、理屈通りにはいかないなと思うことがしばしばあります。

 タバコをスパスパ吸って一〇〇歳まで生きる人もいれば、検査データは全部正常なのにガンで亡くなってしまう人もいます。医者に言われて血圧とかいろんなことに気をつけて暮らしているのに、突然脳卒中で亡くなってしまう人もいます。

「理屈通りにはいかないな」と思う瞬間です。

『バカの壁』で知られる養老孟司先生もこの言葉が大好きです。

 先生と対談したときに、「いや、私は世の中、理屈通りになんかいくと思ってないからね」とおっしゃって、スパスパとタバコを吸っておられました。

 タバコが体に害を及ぼすことは分かりきったことですが、タバコを吸ってあのお年まで生きてこられたどころか、毎年のように海外に出かけていってジャングルに入って虫を捕る元気もあり、頭脳は明晰なのですから、それでまったく問題はないと言えるはずです。

八〇歳を過ぎたら我慢しない。
食べたいものを食べ、好きなように生きる

 私が長年勤めていた浴風会病院は高齢者専門の総合病院です。

 その経験も含めて、高齢者専門の精神科医として、約三五年間、臨床現場で過ごしてきました。診療した患者さんは六〇〇〇人を超します。自分で言うのもナンですが、老年医学のプロフェッショナルだと自負しています。

 浴風会時代は、毎年、一〇〇人ほどのご遺体を解剖させてもらっておりました。すると、本人も自覚していなかったような大きな病巣があるのに、それ以外の原因で亡くなったケースが少なからずありました。

 つまり、最後まで気が付かなかった病気もあるのです。

 ガンもそうです。

 八五歳を過ぎた方のご遺体を解剖しますと、ほとんどの人の体にガンが見つかります。

 世間の常識では、「ガンは早期発見・早期治療すべき病気」とされていますが、本人が気づかないガンもあるし、生活に支障がないガンもあることを教えてくれているわけです。実際、そのうちガンが死因だったケースは三分の一にすぎません。残りの三分の二は“知らぬが仏”のまま亡くなっているのです。

2024.09.04(水)