読者の皆様は「アリ」に対してどのようなイメージを持っているだろうか?
子供の頃、アリとキリギリスの童話を読んで、アリは働き者という良いイメージを抱いた人が多いのではないだろうか。野外で巣穴に水をかけたり、木の枝を差し込んだり、歩いているアリをつぶしたりして遊んだ人も多いだろう。こうしていじめられるアリは弱く、けなげな存在だ。小学校の自由研究で、つかまえたアリ数匹をケースに入れて巣を作らせ、行動を観察するというのも人気で、アリは他の昆虫にない知的な社会行動をする印象だ。一方、アリが家の中に入ってきて食べ物にたかり、アリの巣コロリなどを使って駆除した経験が誰でも一度や二度はあるだろう。しかしそれはしょっちゅうではない。そのため、基本的にアリは無害なイメージだろう。今から5年、10年前であれば、このようにアリは好感度の高い虫であった。
しかしここ数年、日本の社会におけるアリの認識が変わってきている。インターネットの検索エンジンで「アリ ニュース」と入力すると、従来のようにアリの興味深い生態についての話題は約半数で、残り半数は海外からやってくる「外来アリ」の侵入や被害に関するものが上位を占めるようになっている。特に話題となったのは2017年に神戸港で発見されたヒアリで、このアリは人を刺す「殺人アリ」のように報道され、その後も新たな侵入が見つかったとか、関係閣僚会議が開かれた、別の新たな外来アリの侵入が見つかった、といったニュースが続いた。2022年には大阪伊丹空港敷地内へのアルゼンチンアリの侵入と近隣住宅地における家屋侵入・電気製品被害も話題となった。
こうした情勢から、私たちのアリへのイメージは、善良なる働き者から恐るべき害虫へと変わってきている。アリとキリギリスの話で、餌を乞うキリギリスを門前払いするアリを冷たいな、と感じなかっただろうか。そう、アリは身内(巣の仲間)には優しいが、他の生物には冷酷無慈悲な生き物なのだ。そして外来アリは、働き者ではあるのだが、成功しすぎて大繁殖し、人間を含めた他の生物に対しこれでもかと容赦なく害をなす、困った働き者なのである。その外来アリが、ニュースで取り上げられているように、我々の生活のすぐそばに迫ってきている。
2024.09.03(火)