拍手を聞いて、TEELは拳を小さく握った。たかが物越えを一発打っただけだが、勝った、と思った。まだ、ここにいられる。
小一時間ほど滑った後、休憩のため広場から離れ川の近くへ移動した。座り込んで煙草を吸っていたところ声をかけられた。
「お疲れっす」
「ケンジ」
一回りほど歳の違うスケート仲間だった。TEELは煙草を指に挟んだまま右手を挙げる。
「来てたのか」
「ついさっき。TEELさんのチャリ見て、どっかにいるのかなと探したらいたので」
ケンジはスケートボードを倒し、腰を下ろした。
「結構、久々?」
「ちょっと仕事忙しくなっちゃって。新人教育の担当になっちゃったんですよ」
得意げに見えた。ケンジが大学を卒業してからどれくらいだろうか、とTEELは計算をする。確か、三年だ。わざとらしいくらいに短く整えていた髪型が今は少し崩れている。
流石に緩めではあるがボタンと襟のついたシャツを着ているのが気になった。ケンジが自然体としてそういう服装が似合うようになっていることと、その力みのなさがスケートパークの雰囲気にむしろ馴染んでいるように感じることに、胸を突かれた。TEELはTシャツの裾に無意味に指を這わせる。
「いっても休みの日は今日みたいに、なんだかんだ滑りに来てるんですけどね。夜にちょっとスポット行って、みたいのが段々きつく。社会人って辛いですね」
ケンジは煙草に火をつけた。
「でも煙草を人にせびらなくてもよくなったのは良いことかな。次は俺があげる側になります」
「少し寂しいな」
「なら、まだもらってもいいですか?」
ケンジは、そう顔をほころばせてから「金、自由に使えるようになったってので思い出したんですけど」と続けた。
「この間、ブランクデッキ買ったんですよ。また塗装お願いできます?」
「いいよ。なんかリクエストある?」
「どうしよっかな。前のこれは、結構がっつりグラフィティっていうか、ワイルドスタイルで書いてもらいましたもんね」
2024.09.14(土)