この記事の連載
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- 「飽きてから」インタビュー 後篇
お互いが違うからこそ、今まで書けなかったものが書けた
──実際、三浦さんと上坂さんはどのように作品をつくっていかれたんですか?
三浦 打ち合わせを何度かして、それを元に書いた途中までの台本を上坂さんにお渡ししたら、いくつか短歌をつくってくださったんです。その短歌に「これだったらこういうシーンが面白いかな」と膨らませていったという感じです。
──三浦さんにとっては、いままでにないやり方ですよね。
三浦 めちゃめちゃ面白かったです。短歌の説明みたいなシーンになっては面白くないし、かといって短歌と全く関係のないシーンがあってもお客さんはきょとんとしてしまう。どんな距離感で短歌と劇が配置されるのがいいんだろう、この短歌をどう飾るといちばんしっくりくるんだろう、と考えるのが楽しかった。
今回、短歌だけでなく「原案」としても上坂さんの名前をクレジットさせてもらいましたけど、それは上坂さんとの打ち合わせのやりとりが自分の中ですごく大きかったからで。
──どんなやりとりですか?
三浦 たとえば僕は、田舎のロードサイドの風景、イオンがあったり、チェーン店が並んでいるような風景にすごくなじみがあるんですよ。それは好意的な、エモい思い出としてストックされているんです。
でも上坂さんはそれに対して違った記憶を持っている。その感じがちゃんと作品に反映されるといいなと思っていました。僕は全肯定で描いていきがちだけど、今回はそうならないバランスを見つけたい、と。その結果、今までだったら書けなかったようなセリフとかシーンが書けた。それがすごくうれしかったですね。
上坂 さっき三浦さんが言ったような、思い出や感触や価値観の違いみたいなものが、打ち合わせでしゃべればしゃべるほど出てきたんです。最初は「大丈夫か?」と思ったんですけど、それが登場人物のキャラクターのよさになっていて。全肯定でも、全否定でもない、温度やリアリティを持った話になった、すごくいい作品になったなと思いました。
──つくっている途中で他者の視線が入ったことで、新しいものが。上坂さんはこの作り方で短歌をつくってみて、どうでしたか?
上坂 最初は往復書簡のようなイメージでいたんです。でも、予想がついてしまうとお互いつまらないし、短歌と脚本の距離感を大事にしたいと思ったとき、結果的には三浦さんの最初の脚本を見て、私が何首も送って、使えるところで使っていただく、というやり方をとったんですよね。
だから私としては、脚本の内容に合わせてつくるというより、三浦さんを振り回そうと思って、脚本を無視して、全然関係ない短歌ばかり作ってみたりして。それを受け止めていただく、という形で今回できています。
三浦 こうやって一緒につくるからには、自分の思い通りにならない方が面白いから。
上坂 短歌ありきでつくっていただいたシーンも、短歌だけだと絶対こうはならないよな、というところに話が進んでいって、読んだときに驚きが常にありました。
2024.08.23(金)
文=釣木文恵
撮影=佐藤 亘