この記事の連載

池の水を抜き、生き物はそのまま埋めた

 男は池の水を抜き、生き物はすべてそのまま裏山を崩した土をかぶせて埋め、その上に自らズンズンズンとユンボで乗り入れていった。

 池の真ん中に差しかかったところでユンボは男を乗せたままゆっくりと沈みはじめた。脱出しようとしてもなぜか動くことができない。助けを叫ぶ声も出せないまま男は土の中に沈んでしまった。

 村の人々は「生き物の祟りだろう」と噂し合った。

 不可解なのは、ユンボがちょうどはまる深さだったことだ。池の深さはそれほどでもなかったのに、なぜ脱出できなかったのか。

 もうひとつ不可解なのはこの事故の1週間前に、男に生命保険が5000万円ほどかけられていたことだった。

 お不動様がこつ然と姿を消したのはそれからすぐあとのことだった。

 当時は道祖神の盗難が流行っていたので、おそらく何者かが盗んでいったのだろうが、その後も名前だけが残り、その坂は不動坂と呼ばれ続けた。

 それから数十年。

 盗まれたお不動様はいつの間にか元の場所に戻っていた。

 あまりに風化が激しくて売り物にならなかったのか、盗んだ者に何ごとかあったのか、真相はわからない。


松原タニシ氏が厳選した怪談を100話収録した『恐い怪談』から抜粋。

恐い怪談

定価 1,650円(税込)
二見書房
» この書籍を購入する(Amazonへリンク)

松原タニシ(まつばら・たにし)

1982年、兵庫県出身。松竹芸能所属のお笑い芸人。事故物件に住み続ける"事故物件住みます芸人"として知られる。YouTube「松原タニシch」「松原タニシのぞわぞわチャンネル」を運営。ラジオレギュラー番組に「松原タニシの生きる」(ラジオ関西)、「松原タニシの恐味津々」(MBSラジオ)などがある。『事故物件怪談 恐い間取り』(二見書房)がベストセラーとなり、著者累計40万部を誇る。
X:@tanishisuki

次の話を読む「入りたくない」と孫が玄関で泣き叫び… 松原タニシが聞いた新潟県の“とある地域”にある「必ず死ぬ家」

← この連載をはじめから読む