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「映画を観たくなるパンフ」が川勝イズムの真骨頂

――そして、アニエス・ヴァルダ監督によるジェーン・バーキン主演作『アニエスV.によるジェーンB.』と『カンフーマスター!』のビジュアルも大島さん(8月23日より公開)。1988年の作品のリバイバル上映なんですが、これ、本来なら、川勝正幸さん(注:ポップカルチャーに造詣が深いエディター&ライター。映画のパンフも数多く手がけた。2012年没)とタッグを組んでほしかった案件。ヴァルダの『百一夜』は川勝さんがパンフを手がけましたし、ジェーン・バーキンとセルジュ・ゲンスブールは川勝さんのフェイバリットカップルでしたから。

大島 ぼくも真っ先に川勝さんを想起したので、タッグを組んでるつもりでデザインしています。

――川勝さんと大島さんの出会いは、2005年に日本で公開されたウディ・アレンの『さよなら、さよならハリウッド』からでした。当時わたしは、川勝さんのもとで映画のパンフを一緒に作っていましたから、よく覚えています。

大島 ぼくがまだ駆け出しのデザイナーの頃でした。2003年にアキ・カウリスマキ監督の『過去のない男』のビジュアルをデザインしたときに、川勝さんがパンフレットに寄稿してくれたんです。厳密にいえば、それがいちばん最初の出会いになるのかな。

――そうですね。そこで、川勝さんが大島さんのデザインが素晴らしいと感心し、ウディ・アレンのパンフレットを作ることになったとき、「ぜひ大島さんと一緒に」って。

大島 なつかしい。そこから、エディターとデザイナーという関係でいろんな映画のお仕事をご一緒しましたが、映画の世界観をどんなふうにポスタービジュアルで表現するのか、パンフレットというモノにどう落とし込んでいくのか、基本の部分を川勝さんに教えてもらったように思うんです。

――単なる付録としてのパンフではなく、「映画を観たくなるパンフ」が川勝さんの真骨頂でしたもんね。

大島 そういう意味では、「川勝イズム」を引き継いでいるつもりです、ぼくは。

大島依提亜(おおしま・いであ)

アートディレクター。映画のグラフィックを中心に、展覧会広報物、ブックデザインなどを手がける。最近の仕事に、映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』『カモン カモン』『怪物』、展覧会「谷川俊太郎展」(東京オペラシティアートギャラリー)「ムーミン展」など。

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Column

大島依提亜さんと映画の余談。

数々の映画パンフレットや美術展のグラフィックを手掛けるアートディレクターの大島依提亜さん。この連載では、大島さんと「映画の余談」をゆるくしながら、大島さんの頭の中を覗いていきます。

2024.08.26(月)
文=辛島いづみ
写真=平松市聖