類の見立ては当たっていたようだ。
「『呪いのほうは本物』……ね……」
溜め息が漏れた。俺だったらこんなオチは絶対に書かない。
店仕舞のころに美蔵堂へ行くと、類は二階の自室で万年筆をペン回ししていた。
「どうしたものかなぁ」
のんびりとした様子で、彼は独り言とも俺に言ったともつかない調子で呟いた。
「二束三文でさっさと売るとかできないのか? 手放せば、呪いも……」
「さすがに危険なものは人さまの手には渡せないよ」
彼ははっきりと言った。そこは矜持があるらしい。
「向こうに覚悟がない限りはね」
類はたっぷりと間を置いて、不服そうにつぶやいた。
「しかしもったいないなあ。せっかくの『霊つき』なのに……」
「でも、このままじゃお前が危ないんじゃ……。『し』って……『死』しかないだろう?」
「ううーーーん」
彼は鼻先に万年筆を掲げる。いい加減見飽きないのだろうか。
俺は記念館で見たものを彼に伝えた。すると彼は意外なところに食いついた。
「そのお値段でこれかぁ……いいじゃないか。作り手の気概を感じるね。これ、物は決して悪くないんだよ。あ、僕がもらっちゃおうかな」
「死にたいのかお前」
「やだな。ただ、もったいないなと思っただけさ」
類はやはり平然とした様子で、薄く笑った。
今日は帰らずに彼を見張ることにした。自分になにができるわけでもないが、知らないうちに死なれていては寝覚めが悪い。
しかし翌日、類は起きてすぐ出し抜けに言った。
「響さん、一つ頼まれてくれないかい?」
厳かな声だった。
「これの売り主の家に行って、様子を探ってきて欲しい」
「どうして、またそんな……」
「夢見が悪くってね。たぶん、これのせい。これの記憶」
類は頭を掻きながら、テーブルに置いておいた万年筆を手に取る。
なにを見たというのだろう。
類は地図を広げて、住所の書いてある付箋のついた箇所を指差した。
「別に、行ってもいいが……大した由来は、ないと思うぞ……」
2024.07.12(金)