だからこそ、クリスティーナは保守層の反発を前にしても止まらなかった。バラード「Beautiful」のミュージックビデオでは、トランスジェンダーや同性愛者、醜形恐怖症の人々の美しさを讃えた。ヒップホップ調の「Can’t Hold Us Down」では、女性が男性と同じことをすると批判されるという女性差別をテーマに、世の女性たちを鼓舞してみせた。これらの曲は、フェミニストという言葉への言及すら避けられがちだった当時の音楽界の未来を切り拓くかのような政治的表明だった。

パパラッチとの闘い、泥酔騒動で大バッシングへ

 クリスティーナのパワフルな闘志は、ゴシップ誌も騒がせることになっていく。「Can’t Hold Us Down」は、彼女への侮辱をつづけていたラッパーのエミネムへの反撃とも解釈された。加えて、元同僚のブリトニーとのライバル関係、「ロック姉御」路線で売っていた歌手ピンクとの不和疑惑など、同性間の争いも取り沙汰された。

 30代を前に音楽プロデューサーと結婚して息子が生まれると、メディアとの戦いも激化。ゴシップ誌全盛期の2000年代、多くの女性スターがパパラッチの標的となり潰されていくなか、クリスティーナはウェブサイトに反論を書き連ねて抗った。一方で、インタビュー取材中に咳をしたスタッフに対して暴言を吐くなど、取材時の態度の悪さも大いに取り沙汰された。

 2010年代に入ってセールスにかげりが出はじめると、転落がはじまる。ポップスの新星としてあらわれたレディー・ガガとの確執、国歌斉唱での歌詞の間違い、体形変化、泥酔騒動などがかさなり、盛大にバッシングされたのだ。そのさなか、離婚の発表に至る。離婚を発表することでイメージがさらに悪化すると当人もわかっていたが、息子を過去の自分と同じようなつらい家庭環境に置きたくなかったのだという。「人の言うことを気にしながら自分を制限して生きるつもりはない。そんな生き方、これまで歌ってきたことのすべてに反する。私は自分の人生を生きる」。

 音楽業界で孤立したクリスティーナは、派手な舞台から遠ざかった。2012年以降、アルバムを出さなくなったのだ。「あれほどの才能があったらもっと高みにいけた」という声が今でも未だにあるほど惜しまれた活動休止だった。そのかわり、激動の人生を歩むことが多い子役出身のポップスターとしては得難いものを手に入れた。プライベートの幸福、家庭の安定だ。新たなパートナーと家庭を築いた彼女は、二児の母として子どもたちとの時間を犠牲にしなくて済むタレント活動に注力していったのだ。

 40代になったクリスティーナは、節度をもった大人として成熟した。キャリアの全盛期に幸せを感じられなかったことで、売上への執着はなくなったという。近年もあいかわらず元ライバルのエミネムやピンクから口撃を受けているが、同じ中年として「大人になろうよ」と呼びかけるなど平和志向をたもっている。 

2024.08.18(日)
文=辰巳JUNK