2024年2月、テイラー・スウィフトの世界一のコンサートが日本にやってくる。各国で熱狂を巻き起こした彼女のベストヒット公演「ジ・エラズ・ツアー」は、史上はじめて10億ドル(約1,450億円)の興行収入を達成した音楽ツアーとしてギネス記録に認定されたばかりだ。

 2月4日、史上最多となる4度目のグラミー賞年間最優秀アルバム賞を受賞し、母国アメリカで「マイケル・ジャクソン以来の社会現象」と言われるほどの存在となったテイラーだが、浮き沈みの中で闘いをつづけてきたアーティストでもある。

「需要がない」と言われていたデビュー前

 1989年ペンシルバニア州に生まれ、テネシー州で生まれ育ったテイラーは、経済的には恵まれていたもののカントリー音楽の歌手を目指していたこともあり、学校で嘲笑される学生時代を送ったという。背景には、米国における「カントリー」を時代錯誤で「ダサい」ジャンルとみなす風潮があった。

 レーベルの幹部にすら「カントリーファンは中年主婦だから少女の歌なんて需要がない」と否定的な態度をとられていたが、2006年にデビューするやいなや同世代の女子の心をつかんだ。

 テイラー・スウィフトの代表的な楽曲は、自身の体験や心情をつづる日記風の歌詞が特徴的だ。ゆえに、彼女の音楽を聴けば、彼女の人生がわかる。

 10代のころは理想の王子様を求めては傷つくおとぎばなしチックな世界観だったが、アンチも増えつつあった20代になると、自己主張して反撃する大人の女性へと変わっていった。

 人気の反面、「自分で曲を書いていない」と悪評を流されたりするなど、軽視されてもきたテイラーだったが、中でも大勢の記憶に残ったのは2009年、MTV ビデオ・ミュージック・アワード(以下、VMA)での受賞スピーチを、ラッパーのカニエ・ウェスト(現:イェ)に妨害された騒動だろう。

 テイラーの受賞スピーチ中、ウェストが突然壇上に乱入し、ビヨンセが受賞すべきだったと言い放ったのだ。この件は、当時大統領であったバラク・オバマまでコメントするほどの大騒動に発展した。

 それでもテイラーの人気はとどまるところを知らなかった。テイラーの楽曲でもっとも人気なのは恋愛関連の歌だ。交際相手への恋心や辛辣な批判、そして自責までもが歌われる日記風の路線は、共感のみならずゴシップも生む。

 というのも、スターへの階段をのぼっていった彼女がつきあった相手は、ケネディ家の御曹司からアイドルまで豪華絢爛。彼らとの恋愛事情を赤裸々かつ比喩的につづる新曲がでるたび、ファンやメディアはどのスターとのことを歌っているのか憶測し盛りあがるのだ。

 日本でもヒットした「We Are Never Ever Getting Back Together」の場合、ハリウッドスターのジェイク・ジレンホールと推察される彼氏に対して「裏で私のよりクールな曲を聴いて自分を慰めるんでしょ」と皮肉る歌詞が話題になった。

2024.02.07(水)
文=辰巳JUNK