ミヤビちゃんの最後の言葉の意味

――4話には、動脈瘤が見つかった男性が、頭蓋骨を開いて手術をするか、太腿の大動脈からマイクロカテーテルを脳まで入れていく手術にするか……というエピソードがありました。清水さんはカテーテル手術でしたね。

 清水 はい。このドラマでは「開頭手術とカテーテル、両方にメリットとデメリットがある」とか、細かく説明していましたよね。でも、開頭はやっぱり怖い。なるだけ頭蓋骨は切りたくないなあ。自分も体験したことだから本当に興味深くて、「私のためのドラマだ!」って思ってしまいました(笑)。あ、そういえば、もやもや病になった知り合いもいるんですよ。

――『アンメット』にも、ご住職がもやもや病になってしまって、ミヤビちゃんが手術をするという話がありましたね。

 清水 そうそう。その知人は、頭蓋骨に穴を開けて手術したんですよ。そうしたら片方の耳が聞こえにくくなってしまって。それで脳梗塞になるかもしれないとなって、もう一回手術して帰ってきたんですけどね。今はもう仕事にも復帰しています。

――よかったですね。しかし脳の病気の症状っていろいろありますね。

 清水 本当に。ドラマには、味覚がなくなった板さんも出てきましたしね。

――交通事故の後、喜怒哀楽が抑えられなくなって急に怒り出すようになってしまうという話もあったじゃないですか。あの症状になったら家族や周囲の人も大変そうだな、と。

 清水 本当ですね。うちの場合は、私はわりと落ち着いていて、旦那のほうがオタオタしていましたけど(笑)。

――最終回の、ミヤビちゃんが好物の焼き肉丼を作って、それを食べた三瓶先生が泣くというシーンで、清水さんが病院から一時帰宅して、トマトと卵の炒め物を作って、旦那さんが泣いた話を思い出しました。

 清水 そんなことありましたね。最初は塩と砂糖もわからなかったんですが、作り方の手順は覚えていました。いつも料理していた慣れた台所だったからかな。そのあと作ったカレーは大失敗しましたけど(笑)。

――最後、手術後のミヤビちゃんが目覚めて、三瓶先生が「わかりますか」って聞いて、ミヤビちゃんが「わかります」って答えて涙を流して、すぐにドラマが終わったじゃないですか。あれは、「意識があります」という意味の「わかります」なのか「三瓶先生だとわかります」という意味なのか……というのがネット上で話題になっていたのですが、清水さんはどう思いますか?

 清水 私も手術のあと、薬で3日間眠らされて、その間長い悪夢を見ていたんですけど、目が覚めて目の前にいた旦那を見て、「あ、旦那だ」ってはっきりわかったんです。それでもうボロボロ泣いて。だからミヤビちゃんもちゃんと「この人は私が好きな三瓶先生だ」ってわかったんだと私は思います。

『失くした「言葉」を取り戻すまで』

清水ちなみ 文藝春秋 1650円(税込)


脳梗塞で忽然と姿を消した人気コラムニストが約17年ぶりに書いた、愛と笑いに溢れた120%ポジティブ闘病記。

 ●ドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』 Netflixほかで配信中。

2024.06.30(日)
文=臼井良子