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コミュニケーションとしてのセックスは必要か?

――たとえばセックスレスになる要因として、セックスをすること自体が苦痛に感じるようになった、相手に性的関心を抱くのが難しくなった、身体の事情によってセックスができなくなってしまったなどが挙げられます。夫婦間にセックスがあることが当たり前でそれに喜びを感じる人も多い一方で、逆にそのことが難しく、問題を抱える夫婦もいます。

 良い悪いの話ではないんですけど、そういうものも含めて、“揺らぎ”が出てくるのは当然なんじゃないかと考えていました。

――従来の性生活は夫婦を結びつける大切な絆だと考えられてきましたが、現代では夫婦関係に性生活は重要ではないと考える人々が増え、望まないセックスを拒否することもできるようになってきました。それによるセックスレスがこの物語のはじまりでもありますが、夫婦生活において、(生殖目的以外の)セックスはどのように捉えたらいいのでしょう。

 コミュニケーションの一つになり得るものだと思います。だからこそ、お互いが共通の認識で同じように楽しめたり、同じぐらいの関心度であればいいんですけど、そうとは限らない。当初は同じだったとしても、お互いの環境が変わるにつれて差が生じてくるものです。だからこそ、すり合わせは必要だろうなと思います。金銭感覚とかもそうじゃないですか。さまざまな感覚の違いがありますが、どれも重要なものとしてちゃんと話し合うことが大切だと思います。ただ、日常会話自体が少ないカップルもいますし、関係性によってはその話し合いが難しい。話し合いってある程度お互いが成熟していないとできない高度なコミュニケーションだなと思います。それができないから、いきなりキレてしまったり、逃げてしまう人が出てくるんですよね。大切な話ができるようになるには、知性や学歴などとは別に、人間としての精神的な成熟度をある程度鍛える必要があるんだろうなと思います。

―― 一子側の不貞行為が女性用風俗の利用だったこともポイントだと思います。対価を払ってサービスを受けたことに対して、男性である二也が「若い男を金で買った」と嫌悪感を示す様もリアルでした。一子があえてお金を介したサービスを選んだ理由はなんですか?

 二也が美月に恋愛的な好意を抱いているのに対して、一子も恋愛だとちょっとくどくなるなと思っていました。それに「どっちが純度の高い恋か」みたいな話にはしたくなかった。二也が恋でうっとりしているとしたら、一子は恋ではなく、性的な欲求や精神的なものを満たすためにサービスを利用するという対比にしてみたかったんです。それに対して二也が嫌悪感をあらわにする描写も描きたかったことです。双方がパートナー以外とセックスをしたことはそれぞれに切実な思いを抱えての結果なんですよね。

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》インタビュー#3(後日公開)
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渡辺ペコ(わたなべ・ぺこ)

漫画家。北海道生まれ。2004年、「YOUNG YOU COLORS」(集英社)にて『透明少女』でデビュー。以後、女性誌を中心に活躍。繊細で鋭い心理描写と絶妙なユーモア、透明感あふれる絵柄で、多くの読者の支持を集める。2009年、『ラウンダバウト』(集英社)が第13回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選ばれる。2020年に完結した『1122(いいふうふ)』(講談社)は、夫婦とは何かを問いかける話題作として大きな注目を集め、現在累計146万部を超えている。その他の著書に『にこたま』(講談社)、『東京膜』『ボーダー』(集英社)、『変身ものがたり』(秋田書店)、『昨夜のカレー、明日のパン』(原作 木皿泉/幻冬舎)、『おふろどうぞ』(太田出版)などがある。現在、「モーニング・ツー」(講談社)にて『恋じゃねえから』を連載中。

『1122』(1)

定価 759円(税込)
講談社
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ドラマ『1122 いいふうふ』
2024年6月14日よりPrime Videoにて独占・世界配信予定

妻・ウェブデザイナーの相原一子(高畑充希)。夫・文具メーカー勤務の相原二也(岡田将生)。友達のようになんでも話せて仲の良い夫婦。セックスレスで子供がいなくても、ふたりの仲は問題ない……だけど。私たちには“秘密”がある――。それは、毎月第3木曜日の夜、夫が恋人と過ごすこと。結婚7年目の二人が選択したのは夫婦仲を円満に保つための「婚外恋愛許可制」。二也には、一子も公認の“恋人”がいるのだった。「ふたりでいること」をあきらめないすべての人に届けたい——、30代夫婦のリアル・ライフ。一見いびつで特殊な夫婦の関係に見えるふたり。だけど、結ばれて“めでたしめでたし”で終わる物語のその先は……? これは、「結婚」という〈ハッピーエンド〉の続きにある物語。

次の話を読む「二人の人間が何十年も心身ともに 縛り合うのは無理がある?」 『1122』が問う“新しい夫婦像”

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2024.06.14(金)
文=綿貫大介
写真=佐藤 亘