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「私にとって結婚は、なんだか怖いもの」

――婚姻制度自体に興味を持たれたのはいつからですか?

 興味というと良い意味で捉えられてしまうかもしれませんが、そうではなくて。私の両親は結婚に失敗した典型で、私はその失敗例みたいなものをつぶさに身近で見てきたんです。決して失敗したことがダメというわけではなく、私の両親はうまくいかないことについて、きちんと話し合えていなかった。そういう夫婦はわりといると思います。それなのに永遠の愛を誓う婚姻制度って、一体何なんだろうと疑問に感じていました。

――それでは結婚について前向きに考えられないですよね。

 当時はそうでした。付き合っている男性からプロポーズを受けることは幸せで、嬉しいことなのだという影響を少女漫画などからは受けましたが、私にとって結婚は、なんだか怖いもの。だからお付き合いした人が結婚を匂わせてきたら、ちょっと警戒してしまうほどでした。自分が未成熟なままでは、大きな契約を交わしたときに、自分に対しても相手に対しても責任が取れないじゃないですか。だから、もっとちゃんとした大人になってからじゃないと結婚なんかできない、という感覚はありました。

「不倫は最低」という一点張りの見方が多かった

――『1122』では夫婦間で「婚外恋愛許可制」を認めています。これは海外などではそれなりに普及している「オープンリレーションシップ/オープンマリッジ」(パートナー同士が相互の合意の下で、他の人とのデートやセックスを許容する関係)のように感じました。日本ではまだモノガミー(婚姻や性的関係、恋愛関係において1人の相手とのみ関係を築くこと)が当たり前とされているなかで、世間の反応はいかがでしたか?

 私は、「結婚」「夫婦」について考えたいのでこの漫画を描いたんですけど、反応としてはやはり「公認不倫」という言葉が独り歩きして、不倫をするやつなんて最低だという見方がとっても強かったように思います。二也に対する非難の声はとくに多かったです。一子も女性用風俗を利用して二也以外の男性と関係を持ちますが、それよりも男性側の不倫に対する嫌悪感がよく耳に入ってきました。私は「婚外恋愛許可制」に至るまでの過程として、一子のちょっとした乱暴さや粗暴さ、思いやりの無さも描いていたのですが、なにより「不倫は最低」という一点張りの見方が多かったです。

―― 一般的な浮気や不倫との違いは、夫婦間で双方の合意があるか否か。本作が合意の下での「婚外恋愛許可制」を描いたのは、結婚することで個人の身体が相手の所有欲、独占欲に支配されるのはおかしいという疑問もあるのでしょうか。

 そうですね。身体や感情は個人に属しているものなんだけれども、結婚というものは気持ちは別としても、一応、性的な関係は夫婦間だけという決まりですよね。それで全然いける人ももちろん、いると思います。ただ、人生は長期に渡るもの。人間の感情や身体の状態は、性別問わず変わることがあると思うんですよね。

2024.06.14(金)
文=綿貫大介
写真=佐藤 亘