「映画業界では常識」かつてメリル・ストリープが語ったこと
これには、劇場映画業界が男性観客を重視する傾向が関係しているという。とくに2010年代以降で大きいのは、映画館のドル箱が『アベンジャーズ』などのアクション大作ばかりになったことだろう。同ジャンルは男性客に人気で、男性主演が好まれる。
ハリウッド最高の名優とされるメリル・ストリープ(74)は、このように語ったことがある。
「映画業界では常識ですが、もっとも難しいことは、異性愛者の男性の観客を女性主人公に共感させて自分と重ね合わせてもらうことです。これこそが、女性主演映画が少ないことの根本原因なのです。サリンジャーからシェイクスピアに至るまで、女性客は男性キャラクターに共振しながら育ってきたので、女性客のほうが異性キャラクターに共感することに慣れています」。
熟年になっても役柄に恵まれてきたメリルの場合、好条件とされる家庭事情もあった。彼女が45年間結婚している美術家の夫は、子育てに非常に協力的だったのだ。一方、ツアーで忙しいバンドマンの夫とのあいだに3人の子を持つキャリー・マリガン(38)の場合、撮影現場に託児所がないことにひどく苦労したと明かしている。
ハリウッドのトップ女優でも、母親として働くのは大変だ。『アバター』のゾーイ・サルダナ(45)によると、長らく企業幹部も現場も男性ばかりの業界であるため、男性スターに対するペントハウスやヨットなどの贅沢な補助は充実していても、女性キャストのためのベビーシッターなどの育児支援は通りにくい。
多くの女性たちと同じく、ワークライフバランスも悩みの種だ。新星俳優シドニー・スウィーニー(26)は早く子を持ちたいというが、若くして母親になることで、偏見によりキャリアが下降するおそれを抱いている。実際に、26歳で出産したミーガン・フォックスは、産後すぐに仕事に復帰しないと「普通の母親」になった過去の人扱いされる文化が根づよいと証言している。
他方、女性キャラクターの幅が広い領域が、女性客がメインとされるテレビドラマ業界だ。29歳でアカデミー主演女優賞を獲得したリース・ウィザースプーン(48)は、今やテレビ界の大物。プロデューサー兼主演として、メリルやニコールと共演した『ビッグ・リトル・ライズ』といった大人の女性たち主演の番組をヒットさせている。
Netflixで7シーズンつづく人気を誇った『グレイス&フランキー』は、放送開始当時70代後半だったジェーン・フォンダ(86)とリリー・トムリン(84)がダブル主演をつとめたシニアドラマだ。
2024.05.12(日)
文=辰巳JUNK