明治という時代を果敢に生き抜いた昭憲皇太后の生涯

 1886(明治19)年に初めて洋装を着用されて以来、より簡素で動きやすい洋服の採用をうながし、産業や美術の振興のために国産服地の使用も奨励されたという昭憲皇太后。一方で、積極的に外国人と交際し、女子教育や日本赤十字社事業へも深く関わるなど、日本が新しい時代へと踏み出す途上に大きな足跡も残されています。

「明治天皇のご都合が悪い時にはお一人で公式行事に臨まれることもあるなど、皇后として非常に強い意識をお持ちだったと思います。上皇后陛下も深く尊敬の念を抱いておられるそうで、『皇后の役割の変化ということが折々に言われますが、私はその都度、明治の開国期に、激しい時代の変化の中で、皇后としての役割をお果たしになった昭憲皇太后のお上を思わずにはいられません』と語っておられます」(今泉さん)

「お話を伺うほどに、現代の女性と変わりない進歩的なお考えの片鱗を感じました。もっと言えば、130年余りも経っているのに、現代の女性の考えはむしろ後退しているんじゃないか!? とも思えてくるほどです。洋服を着用されたこと、写真に姿を残されたこと、外交の場でも重要な役割を担われたこと……数多の“初めて”を切り拓いていらっしゃる。いったいその原動力はどこにあったのか? なぜそれほどまで勇敢でいられたのか? 同じ女性として、すごく知りたくなりました」(一色さん)

 今回の展示では大礼服のみならず、昭憲皇太后が着用された数々のドレスや十二単などの装束、さらに明治天皇の正服(軍服)や、お二人の肖像画など変革の明治を感じる貴重な品が数多く展示されています。

「私は個人的に明治時代に強く惹かれるんです。社会や人が大きく変わっていく、変わらねばならない、その中での葛藤やドラマが胸を熱くさせて好きなんだと思います。そういう意味で、昭憲皇太后の生き様はまさに明治の醍醐味を感じます。まだまだ畏れ多いですが、小説家としての実力をつけて、いずれ昭憲皇太后の一生に向き合うことができればうれしいですね」(一色さん)

 前期の「昭憲皇太后の大礼服」は5月6日(月)まで。後期の「明治天皇と華族会館」では、展示品をガラリと入れ替え、明治天皇の意向を受けて発足した華族会館を前身とする霞会館の所蔵品を展示。こちらも明治期の文化を知るうえで貴重な機会となりそうです。

【展覧会情報】

展覧会名 受け継がれし明治のドレス
会期   【前期】昭憲皇太后の大礼服 4月6日(土)~5月6日(月)
     【後期】明治天皇と華族会館 5月25日(土)~6月30日(日)
     ※前後期で展示品はすべて入れ替わります(常設展示品を除く)
開館時間 10:00~16:30(最終入場16:00)
休館日  木曜※5月2日(木)は開館
会場   明治神宮ミュージアム
     東京都渋谷区代々木神園町1-1
https://www.meijijingu.or.jp/museum/exhibitions/?id=1708067909-602273

一色さゆりさん

1988年、京都府生まれ。東京藝術大学美術学部芸術学科卒業後、香港中文大学大学院修了。2015年に第14回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し、翌年に受賞作『神の値段』でデビュー。主な著書に『ピカソになれない私たち』『カンヴァスの恋人たち』、「コンサバター」シリーズ『ユリイカの宝箱―アートの島と秘密の鍵』など多数。

2024.04.26(金)
文=張替裕子
写真=杉山秀樹