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「しっぽをふっている=うれしい」は本当?

――動物とこんなふうに理解しあいながら共生することができるんだなと思う一方で、言葉が通じる人間同士でもこんなにていねいに接しているだろうかと反省したりもしました。特に描きたかったエピソードは?

つづ井 特に描きたかったのは2つ。まず、一番描きたかったのが「老犬と感情」です。「犬はしっぽをふったらうれしいといわれてるけどそれって本当?」と悩み続けていて。

――その疑問を出発点に、長く一緒にいるうちにAの感情を感じ取れるようになってきたことが描かれたエピソードですね。

つづ井 もう一つが最後の方の「老犬と愛情」です。私からAに対して愛情表現をしたいけれど、どうやったら伝わるんだろうと悩んで。人間なら抱きしめるとか「大好きだよ」とかなんですけど。それで、Aが私にしてくれる「頭ぐりぐり」をしたら、喜んでくれているような気がしたんです。この2つはとても描きたかったですね。

 同じ言葉を持たない犬と人間という関係だけど、長く過ごしてると「気持ちが伝わったんじゃないか」とか、「今心が通じ合ってるんじゃないか」と思い込ませてくれる時間があった……という、どちらも同じような地味なエピソードなんですけど、Aと過ごした時間の中で、このことがすごく印象に残っているので。これからも忘れたくないし、絵日記に残せてとてもうれしいんです。

――地味なようでとてもドラマチックです。「こんなに穏やかに一緒の空間で過ごしておれるのってすごいことやない?」というセリフがありますが、本当にすごいことです!

つづ井 居心地がいいと思ってくれてるのかなと思って。

――ただそばにいて「一緒に過ごす」だけが居心地いいって最上位の関係ではないでしょうか。

つづ井 これが私の中で犬と暮らしたときの一番うれしかったことです。この先も一番思い返すんだろうなと思います。

2024.04.20(土)
文=粟生こずえ