この記事の連載
- 『ジャズ・ジャイアントたちの20代録音「青の時代」の音を聴く...
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キース・ジャレットとチック・コリアの共存
この時期のロイドのバンドをマイルスは何度かクラブで観て、こう評している。
「本当にすばらしいことをやっていた頃の彼のバンドには、2人の若者、ジャック・デジョネットというドラマーと、キース・ジャレットというピアニストがいた。リーダーこそチャールスだったが、音楽をすばらしいものにしていたのは、この2人だ」(『マイルス・デイビス自叙伝』より・以下同)
ロイドに対しては辛辣だが、キースとデジョネットには早くから注目していた。
チャールズ・ロイドには、ずっと後にインタビューしたことがある。2019年に来日したときに、彼が宿泊する白金台のシェラトン都ホテル東京を訪ねた。ラウンジで待っていると、ロイドは奥さんを伴ってやってきた。彼はこのとき81歳。十分にレジェンドといえるキャリアだ。穏やかな、とても謙虚な人だった。
時代を経ても、世代を超えて聴き継がれるアーティストが共通して持つ資質をたずねると、彼はこう話した。
「自分がいかにちっぽけであるかを自覚していることだと思う。自分は何者でもない、という認識を持つことが大切で、まだまだ、もっともっと、と高みを目指すようになる。それが音楽の質も高める。その結果、より高揚感ある演奏ができて、しかもリスナーは安らかな気持ちになれる。これからも僕は演奏を続ける。拍手をもらっても、ブーイングを浴びせられても、今日が最後のチャンスと思って、演奏を続ける」
そう語る傍らで、優しそうな奥さんが微笑んでいた。
1970年、キースはエレクトリックに舵を切ろうというタイミングのマイルスのバンドに参加する。
「夏の初めには、チック・コリアとキース・ジャレットの2人が、オレのコンサートバンドにいた。あの2人が一緒に演奏していたなんて、なんとも言いようがないほどすばらしかった。たしか2人が一緒にいたのは、3、4カ月の短い間だったけどな」(『マイルス・デイビス自叙伝』より・以下同)
マイルスはご満悦。実際にマイルスとチックとキースという3人のレジェンドが1つのバンドにいて一緒に演奏していたことは、ジャズ史を眺めても奇跡の一つと言っていいだろう。
2023.12.21(木)
文=神館和典