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 アイヌ民族の壮絶な史実を赤裸々に描いた映画『カムイのうた』で主演をつとめた吉田美月喜さん。文字を持たないアイヌ民族の言葉を初めて日本語に訳した知里幸惠をモデルにした女性・テルを演じています。役作りの難しさについて、吉田さんにお聞きしました。


──『カムイのうた』へのご出演が決まった時は、どのようなお気持ちでしたか?

 テル役に決まったと聞いた時は、「監督と一緒に闘うというくらいの意気込みで、この作品を世の中に伝えていかなくてはいけない」と、強い使命感を抱きました。

 テル役はオーディションで決まったのですが、オーディションを受ける前は、アイヌ民族や文化について、「小中学生の時に、授業で習ったことがあったな」というくらいの認識しか持っていませんでした。でもオーディション中もずっと、映画に対する菅原浩志監督の思いや情熱をひしひしと感じていましたし、アイヌについて調べれば調べるほど、知れば知るほど、生半可な気持ちでできる役ではない、という思いが強まっていたので、決まった時は身が引き締まる思いでした。

──テル役を演じるにあたって、菅原監督からはどんなふうに演じてほしいと言われましたか?

 監督からは撮影に入る前に、「知里さんとしてではなく、テルとして演じてほしい」と言われました。

 テルのモデルは、知里幸惠さんという実在の人物で、映画のストーリーも、実際の知里幸惠さんの生涯をなぞって描かれています。そのうえで監督は私に、「実在した知里さん」ではなく、知里さんの人生や考え方を踏まえたうえで、テルを演じる私自身の思いや考えを表現してほしい、とおっしゃいました。これは実際にやってみるとかなり難しくて、感覚をつかむまでに苦労しました。

──どのように役作りをされたのですか?

 まずは当時のアイヌと日本の歴史を勉強するところから始めました。史実を学びながら、同じ19歳の女性として、アイヌの歴史の中に生きる自分の姿をイメージしていきました。

 そして、アイヌ民族として生まれたばかりに、和人によって差別や迫害を受ける怒りや哀しみ、「なぜこんな理不尽に苦しい思いをしなくてはならないのか」という憤りなど、自分の中に自然に湧きあがる感情を、役に投影していきました。

2024.01.26(金)
文=相澤洋美
撮影=杉山秀樹