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 アイヌの叙事詩ユーカラ(※ラは小文字)を初めて美しい日本語に訳し、今なお高く評価されている実在の人物・知里幸惠をモデルに、アイヌ民族の苦しみや哀しみを描いた映画『カムイのうた』。知里をモデルにした主人公テルを演じた吉田美月喜さんに、映画の見どころや、吉田さんご自身のことについてお聞きしました。


──映画『カムイのうた』は、北海道で撮影されたのですか?

 作品全体としては、北海道が多いですね。東川町やその近郊、石狩市など広域で撮影されています。私は夏場に北海道に1ヵ月くらい滞在して撮影しました。

 大変ながらも楽しい撮影だったのですが、冬の場面の撮影だけはつらかったです。冬場のシーンのために、夏の撮影とは別に私は2日間、冬の北海道に滞在したのですが、本当に、本当に寒くて……。今思い出しても大変でした。

──作品のなかで、とくに印象に残っているシーンはありますか?

 正直、どのシーンも大切なので、選ぶのが難しいですね……。今作は、アイヌ民族の方に実際に起きたことや史実をベースに映画化されたものなので、どのシーンも本当に魂を込めて、大切に演じました。

 でもあえて選ぶなら、亡くなったテルを悼んで、兼田教授の奥さんの静さんが我が子を失ったかのように哀しみ、泣いてくださる場面です。作品の中で「テル」として生きた私から見れば、「これまでアイヌというだけで苛酷でつらい人生を送ってきたけれど、こんなにもたくさんの人に愛されていたのだなあ」と感じられるひとときで、すごく私の胸の中に残っています。

──吉田さんはこれまで、等身大の女性を多く演じてきました。今作も、撮影当時の吉田さんの年齢は同じ19歳でしたが、どこかご自分に共通する部分や似ているところはありましたか?

 実は、最初は共通点がゼロでした。ゼロっていうと言い過ぎかもしれませんけど、あまりにもテルが偉大すぎるので、ただすごいなと思うばかりで、自分とはまるで違う、遠い存在のように感じていたんです。

 実在の知里さんもそうですが、映画の中でテルは苛酷な運命を背負います。それでも、「ユーカラを文字で残す」ことを自分の使命ととらえ、受け入れる。そんな潔く強い生き方を選ぶテルは、同じ19歳とは思えない芯の強い大人の女性だと思っていました。

 でも、知里さんの生まれ故郷である登別で「知里幸恵 銀のしずく記念館」を訪れた時に、知里さんが婚約者に宛てた手紙を読んで、「ちゃんと19歳の女性だったんだ」と、すごく親近感を抱いたんです。そうしたら、それまで遠かったテルが急に生身の人間として身近に思えて、共感できる部分が見えてきました。

2024.01.26(金)
文=相澤洋美
撮影=杉山秀樹