その後も、マドンナが止まることはなかった。ペプシが降りた1990年のツアーでは、イタリア公演で「Like a Virgin」をローマ教皇に捧げると宣言。激怒したローマ教皇ヨハネ・パウロ2世は「史上もっとも悪魔的なショー」だとして信徒にボイコットを呼びかけた。

 トロント公演では、警察から逮捕リスクを告げられていた自慰のような振り付けをやりきったという逸話もある。

鍛えあげたお尻をアピール…マドンナが挑む“最後の壁”

「私は、世界一の歌手やダンサーになりたいわけじゃない。人々を動揺させる、挑発的で政治的な存在でありたい」

 現代「炎上」ビジネスの元祖とも言えるマドンナだが、重要なのは、若い女性やゲイコミュニティから熱狂的な支持を得ていたことだろう。抑圧されている人々のヒーローとなったことは、ある種自然なことでもある。彼女の挑発的表現は、単純な話題づくりではなく、保守的な宗教や男性社会に対する反抗であり、人々に疑問を投げかける芸術だったのだから。

 結果的に、マドンナは、タブーとされがちだった女性の性欲、ひいては「性を愉しむ女性」の存在を世界に知らしめ、大衆文化の表現の幅を広げた。男性と対等に仕事をするビジネスウーマンの代表格にもなった。これこそ、ポップの女王として、今なおビヨンセやテイラー・スウィフトなどの後輩から敬意を寄せられる理由だ。

 現在、マドンナが「最後のフロンティア」として取り組んでいるのが、年齢差別への反抗だ。この10年ほど、TV番組やSNSで鍛えあげたお尻をアピールしては「歳相応にふるまえ」といった反発を引き起こしている。これらの行動は、年齢を理由にした侮辱が許容されている世間に「セクシーでいる熟年女性」の存在を見せつける試みなのだという。

2023.08.12(土)
文=辰巳JUNK