実はこの問題は、掘り返せば掘り返すほど様々な論点が芋づる式に次から次に湧き出てくる大変興味深いテーマなのです。一見、今日の労働問題の議論の焦点からはかけ離れた好事家的な話題のように見えて、その実は戦後日本の労働法制の根本に潜む矛盾を一身に集約するような問題でもあります。

 この「はじめに」の冒頭の『家政婦は見た!』の解説(「市原悦子演じる……去っていく」の部分)は、実はWikipediaの文章をそのまま引用したもので、そこには(恐らく記述者も気が付いていないであろう)矛盾があるのですが、それがなんだかお分かりになるでしょうか。その矛盾こそが、本来家事使用人ではなかった家政婦を家事使用人だとして、労働基準法や労災保険法の保護を剥奪してしまった根源に関わるものなのだといえば、びっくりするかも知れません。

 原告側も被告側も裁判官も含めて、今回の家政婦過労死裁判の関係者の恐らく誰一人も気が付いていないであろう、この問題の根源を探る歴史の旅路に、これからひとときお付き合いいただければ幸いです。


<はじめにより>

2023.08.09(水)