ディープな音楽ファンであり、漫画、お笑いなど、さまざまなカルチャーを大きな愛で深掘りしている澤部渡さんのカルチャーエッセイ連載第5回。今回は2月に旅立たれたムーンライダーズの岡田徹さんに捧げる澤部さんらしい追悼のお話です。

 2023年2月14日(金)にムーンライダーズ岡田徹さんが亡くなってしまった。同じステージに立つようになって2年が経ち、怪我をしてしまった岡田さんのリハビリも順調で、さあこれからという時だったからもちろんショックなのだけど、実感がわかずにさざなみのように悲しみが押し寄せる毎日だ。iPhoneの全曲シャッフルで曲がかかったり、かつて岡田さんが住んだあたりを車で通ったりするだけで心が揺れてしまう。そんな日々を過ごしている。

 数日後に本番を控えたムーンライダーズに向けたリハーサルの休憩時間、マネージャーの野田さんが終演後かける予定だった「Last Serenade」の岡田さんヴァージョンのマスター音源がすぐに見つからなさそう、というのでその「Last Serenade」が収録されているアナログ盤『Ciao!』の盤起こしを買って出た。「Last Serenade」はムーンライダーズが2011年に活動休止を発表したタイミングで発表された新曲だった。ファンからしたら別れの象徴でもあるこの曲の、アナログ盤にだけ収録されたそのヴァージョンが終演後にかかるというのはきっと悲しくも、美しいことのように思えた。

 京都α-STATIONでやっている「NICE POP RADIO」でレコードの盤起こしをする機会が多くあるため、作業部屋のターンテーブルはすぐに録音できるようになっていたので、部屋に帰ってレコード棚から『Ciao!』を取り出す。『Ciao!』はもちろん大好きなアルバムだけど、重いアルバムでもあるので頻度高く聴き返しているわけではなかったから、久しぶりに「Last Serenade」が収録されたD面をターンテーブルにおいて、いろんなことを思い出した。

 このレコードは渋谷のタワレコで買ったやつで、渋谷店・新宿店で購入すると、年末に新宿のタワレコの屋上で開催されるライヴの抽選に参加できる、という特典がついていた。当たらないかもな、って思いながら抽選箱に手を突っ込むとなんと当たり券を引き当てた。当日向かってみると、渋谷店と新宿店の抽選番号で入場列は2列に分かれていて、隣に新宿店でひとつずれた番号を当てていた(今、スカートだけではなく一緒にムーンライダーズのステージに立っている)佐藤優介がいたんだった。

2023.07.22(土)
文=澤部 渡
イラスト=トマトスープ