ディープな音楽ファンであり、漫画、お笑いなど、さまざまなカルチャーを大きな愛で深掘りしている澤部 渡さんのカルチャーエッセイ連載第3回。今回は人生になくてはならない大事な人のひとりである細野晴臣さんのラジオ番組に出演したときのお話です。

 昨年、細野晴臣さんのラジオ番組、「Daisy Holiday!」に出演することになった。子供の頃から大好きなミュージシャンのラジオに出演するだなんて、収録の当日、その瞬間まで信じられず、妻以外の人にこのことが言えないままスタジオに着いてしまった。スタジオへ続く階段をくだっていくのだが、不思議とそこまで緊張していないように思えた。ソファに座り、なんとも言えないぬるっとした感じで番組の収録は始まった。トチった言葉を3回、言おうとしても言いなおせない体たらくで、喋ってみてものすごく緊張している、とわかったというようなありさまだった。

 細野晴臣さんは僕の人生にとってなくてはならない人のひとりで、ある程度の年齢になるまでは「細野晴臣」の名のもとで円滑にすすんだコミュニケーションなんていうものは山程あって、そこから今に至るための大切なやりとりがいくつもある。あらゆる点を線にしてくれるきっかけをくれた細野さんがスカートを聴いて曲の長さが3分であることに共鳴してくれたり、歌声を指して大滝(詠一)くんみたいだね、と言ってくれたりする時間は至福でしかなかった。

 この日、番組からは事前に4曲を選曲してほしい、と言われていた。リリース前だった『SONGS』の中でオンエアーが解禁されているなかでもっともチャーミングであろう「海岸線再訪」、レコーディングという意味でも、ソングライティングの意味でも自信のあった「四月のばらの歌のこと」、かつての名刺代わりだった「ストーリー」、そして佐藤優介の「UTOPIA」を選んだ。悩みに悩んでこの選曲になったのだが、真っ先に選曲リストに加えたのは佐藤優介の「UTOPIA」だった。

2023.03.15(水)
文=澤部 渡
イラスト=トマトスープ