優介はスカートでずっとキーボードを弾いてくれている腕利きのミュージシャンなのだが、出会いは15年前、私が大学3年生だった頃にまで遡る。長くてつらい学生生活を送っていた私の学部に入学してきたのが優介だった。先輩か誰かから「澤部、YMO好きだって言ってたよね。新入生にYMOが好きなの入ったらしいよ」と言われて、過去の経験から(ははーん、どうせ「ライディーン」が好きなんだろ)と斜に構えた態度を取っていた。「期待は失望の母である」のだ。ところがある時、自習室でYMOの「LOTUS LOVE」を聴いていると、優介も入ってきて、ふたりで同じドラムのフィルインを口ずさんだのだ。私の人生はその日を境に変わったと言ってもいいのかもしれない。灰色だった学園生活も、灰色でもいいか、と諦めることができたように思う。その後、いろいろあって我々はかつて語り合い、ライヴに行ってはばったり会っていたムーンライダーズのステージに立っている。
「Daisy Holiday!」に出演することになったのは所属するカクバリズムが20周年ということもあって、その流れだった。会社としては細野さん及びリスナーに対してスカートを売り込む狙いもあったはずだが、4曲中1曲に所属アーティストでもないアーティストの曲が入った選曲リストであったにもかかわらず、社長はそれをそのまま番組側に渡してくれた。かくして放送中、ムーンライダーズの話で佐藤優介に触れることもでき、番組の最後には「UTOPIA」を流すことができ、「UTOPIA」は曲がはじまってものの数秒で細野さんから「おお、面白い」を引き出した。嬉しくてたまらなかった。
真っ先に「UTOPIA」を選曲リストに加えたのだが、そこに葛藤があったことも確かだった。それは「細野さんに聴いてもらう自分の曲が減る」ということではなく、優介に「なに余計なことしてくれちゃってんの」となじられる可能性がないこともない、ということだ。事実、余計なお世話ではあったはずだ。佐藤優介がゲストの「Daisy Holiday!」だっていつかきっとあるのだ。っていうか、なきゃおかしい。その証明のためでもあるのだが、それならその時のために取っておくべきじゃないのか、と。
放送から数日経った頃、大阪のなんばHatchでカクバリズムの20周年イヴェントがあり、スカートもバンドで出演した。私は前日、京都のα-STATIONで持っている「NICE POP RADIO」5周年記念の生放送があったため、バンドメンバーとは現地で落ち合うことになっていて、すこしそわそわしていた。楽屋入りした私はメンバーに挨拶をして、軽く無駄話に花を咲かせた。荷物をおろし、頃合いを見計らって優介に「余計なお世話だった?」と訊くと「行きの新幹線でもみんなと話したんですけど、あんたの曲かければよかったじゃん! よくやるわ、って。」、呆れたように私に言った。怒ってはいないようだった。
澤部 渡(さわべ・わたる)
2006年にスカート名義での音楽活動を始め、10年に自主制作による1stアルバム『エス・オー・エス』をリリースして活動を本格化。16年にカクバリズムからアルバム『CALL』をリリースし話題に。17年にはメジャー1stアルバム『20/20』をポニーキャニオンから発表した。スカート名義での活動のほか、川本真琴、スピッツ、yes, mama ok?、ムーンライダーズのライブやレコーディングにも参加。また、藤井隆、Kaede(Negicco)、三浦透子、adieu(上白石萌歌)らへの楽曲提供や劇伴制作にも携わっている。2022年11月30日に新しいアルバム『SONGS』をリリースした。
https://skirtskirtskirt.com/
Column
スカート澤部渡のカルチャーエッセイ アンダーカレントを訪ねて
シンガーソングライターであり、数々の楽曲提供やアニメ、映画などの劇伴にも携わっているポップバンド、スカートを主宰している澤部渡さん。ディープな音楽ファンであり、漫画、お笑いなど、さまざまなカルチャーを大きな愛で深掘りしている澤部さんのカルチャーエッセイが今回からスタートします。連載第1回は新譜『SONGS』にまつわる、現在と過去を行き来して「僕のセンチメンタル」を探すお話です。
2023.03.15(水)
文=澤部 渡
イラスト=トマトスープ