この記事の連載

 うつわのある暮らしには憧れるけれど、どんなアイテムが使いやすいんだろう……? うつわを手軽に、上手に暮らしに取り入れるためのヒントを求めて、達人たちを訪ねました。


◆Vol.4 お話を聞いた人 久保百合子さん

 フードスタイリスト。1968年生まれ。『きょうの料理』『オレンジページ』などの料理雑誌、レシピ本のスタイリングを25年にわたって手掛ける。そぎ落とされたシンプルなスタイリングで料理を引き立たせるその手腕に業界人のファン多数。国内作家のうつわを中心に自身でも幅広く食器を収集する。


“55歳・夫とふたり暮らし”にちょうどいいお皿

 ヒントというほどのことでもないのですが、私が普段どういうものを多く使っているか、ということから「うつわの使いやすさ」を考えてみました。となると一番よく使っているのが、輪島塗の3点セットなんです。

 8年くらい前に購入したものですが、まず漆(うるし)だから軽くて、持ちやすいのが嬉しくて、ありがたいんです。それに割れないし、欠けないし。

 漆っていうと使い方が難しいと思われがちですが、「洗ったらすぐ拭く」「水に浸けっぱなしにしない」だけを守れば、あとは普通のお皿と同様ですよ。あ、熱湯を入れるのもいけないけど、それぐらいで。

 使い方としては、大きいお椀に具だくさんの汁を入れて、中椀にごはん、小さいのは小鉢的にお漬物なんかを入れることが多くて。この組み合わせで1食が完結します。夫とふたり暮らしなので、2セット持っていて、食卓に出すお皿はこれだけというのが手軽で実にいいの。

 若い頃はもっとおかずも食べていたし、作ってもいました。でも同年代の夫とふたり、あまり作らず軽く済ませることも多いし、そのときある肉や魚介、野菜をたっぷり入れておかず汁にして、ごはんとお漬物なんかでサッと済ませたいときにぴったりのお椀セットなんです。これは本当に出合えてよかったですね。

 私の暮らしで一番使い勝手のいいサイズが、六寸のお皿。メインのおかずを盛るなら一般的にはもうちょっと大きめのお皿にするんですけど、55歳の私にはハンバーグも小さめがいいし、添えるものも大根おろしにスプラウトちょっとぐらいがいい。そうなると六寸ってサイズ的にぴったりなんですよ。

 あるいは「小さめの冷奴ひとつ、でも薬味どっさりに」なんてときにもいいサイズ。簡単な混ぜごはんを作ることも多いですが、一人前を盛るときにも六寸はいいいですね。

 基本的には平皿が好きですが、少し深さのあるものも持っておくと、おでんや肉じゃがなど、汁気のある主菜の盛り皿としても活躍してくれます。焼きそばなんかの盛り鉢にもいいですよ。

 色や手ざわりのことでいうと、つるんとした磁器、それも白色系のものって私は盛りにくいんですよ。むずかしいと思う。きっちりと繊細に盛りつけしないとなかなか料理が映えない。

 何といっても盛りやすいのは黒色系の陶器ですね。素朴で手ざわりに温かみの感じられるものだと、本当に盛りやすい。料理のアラを隠してくれるとも思います。もちろん、こういうのって好みの問題ですけどね。

 六寸よりひとつ上のサイズ、七寸皿はふたり分のおかずを一緒に盛るとき、役立ってくれます。七寸は深めのもの、浅めのもの2種類持っていると便利。私は深めのものにはよく麻婆豆腐なんかを盛って、浅めのものには焼き魚とか、買ってきたコロッケなどを盛っています。

 縁に少し厚みのあるものを選ぶことが多いかな。触っていて安心感があるというか、手に取りやすく、見た目にも優しい感じが出る気がしますね。

 好きな作家さんはたくさんいるんですけど、伊藤環さんのものを選ぶことが多いですね。とても使いやすいんです、料理の種類を問わずいろいろと盛ることができて。手触りもいいし。

2023.07.25(火)
文=白央篤司
撮影=平松市聖