この記事の連載

 うつわのある暮らしには憧れるけれど、どんなふうに集めていったらいいんだろう……? うつわを手軽に、上手に暮らしに取り入れるためのヒントを求めて、達人たちを訪ねました。


◆Vol.9 お話を聞いた人 鈴木一夫さん

鈴木一夫さん

1951年東京都生まれ。「荻窪 銀花」店主。大学卒業後、建築事務所勤務を経て1980年に「荻窪 銀花」をオープンする。うつわのみならず工芸品全般に造詣が深い。
https://www.kan-an.com/


やっぱり「好き・嫌い」がなにより大事

 うつわを選ぶ上での物差しって、やっぱり「好き・嫌い」だと私は思っています。詳しくなくても、直感的に思ったことって正しいものです。自分が好きなものでないと使いませんからね。「あ、これ好きだな」と思うものがいくつか見つかったら、「何を盛ろうか」と考えてみて、3品ぐらい思いつくものがあったら、買って間違いのないものだと思います。

 いわゆる磁器は使い続けても基本的にほぼ変化はありません。それはそれでひとつの良さです。対して陶器は使っていくうちに「侘びて」いきます。持ち主が使い続けることで生まれる「侘び」とは「育てた」ということ。育てたうつわは「おいしそう」にも繋がるんです。

 私の好きなうつわは、「おいしそうなもの」です。おいしそうなうつわとは、よく焼けたもの。よく焼けると、土の中の鉄が溶けて独特の表情が生まれます。そういううつわは、丈夫で使いやすく、口当たりや手ざわりもいいんですよ。陶器のうつわはアシンメトリー、つまり対称的じゃないものが多いですが、自然な歪みはうつわの美しい表情だと思っています。

2024.02.06(火)
文=白央篤司
撮影=平松市聖