この記事の連載
河野裕さんインタビュー #1
河野裕さんインタビュー #2
白蛇・カコは『不思議の国のアリス』の「白うさぎ」
――ファンタジー小説の醍醐味を感じたのが白蛇のカコさんとの出会いです。
河野 そうですね。カコは『不思議の国のアリス』における「白うさぎ」のようなキャラクターで、ファンタジーへの入り口はここですよ、と伝えてくれます。
物語を作る過程で、プロットを脳内でたくさん出してはボツにしているんですけど、カコはまったく違うストーリーで生まれたキャラクターなんです。もともとは、水神の2つの魂とご神体を全部揃えるという展開を考えている時に生まれました。
――神々の登場シーンを書くにあたって、取材や資料探しなど、大変だったのではないですか？
河野 神については知識もありましたし、そこまで苦労しなかったのですが、一瞬だけ出てくる英賀城（あがじょう）についてはめっちゃ調べました（笑）。桜の木を切り倒して増築したにもかかわらず、結局秀吉に焼かれたお城なのですが、マイナーすぎて資料がなかったんです。
――どれが現実にあるもので、どれがないものなんだろうと調べてしまいました。
河野 創作部分は神様のイチとカコ、それに杏が祥子に「盗み出してほしい」と頼む古書として登場する珍妙な稀覯本（きこうぼん）・徒名草文通録（あだなぐさぶんつうろく）くらいで、ほかはわりと実在します。
輪廻転生の一幕で描いた三味線の素材や、室町幕府の六代将軍が家臣の裏切りによって京で討たれ、その影響で質屋で人が襲われて死んでいることも史実通りに書いていますね。
河野裕（こうの・ゆたか）
1984年徳島県出身、兵庫県在住。2009年、『サクラダリセット CAT,GHOST and REVOLUTION SUNDAY』（角川書店）でデビュー。2015年、『いなくなれ、群青』（新潮社）で第8回大学読書人大賞を受賞。2020年、『昨日星を探した言い訳』（KADOKAWA）で第11回山田風太郎賞候補。2022年、『君の名前の横顔』（ポプラ社）で第3回読者による文学賞を受賞。
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2023.08.01(火)
文＝ゆきどっぐ
撮影＝鈴木七絵
