結果として私は休筆宣言をした。岩手県や宮城県にはまだまだ心を取り戻せぬ人々が何万人といた。そういう人たちがもし私の小説を目にすればどう感じるだろう。連載の大方は震災とは無縁の呑気な江戸時代の話であったり、怪奇小説。だったらそちらを中断して被災地に暮らす人々の慰めとなるような物語を書けばいい、と思われるだろうが、この世界、そんなに甘くはない。すべてを休まざるを得ない状況に追い込まれた。
そしてかれこれ10年以上が過ぎた。
いわゆる時効というものに近い。中断したままの連載に関してせっつく雑誌社も今は半ば諦めの気持で接してくれている。もちろん他社の連載の再開となれば、自社でもと強面で迫るに違いないが、新規の新聞連載となれば大目に見てくれる。それを切っ掛けにまた小説を書くつもりになるのをむしろ期待してくれているのだ。まぁそれは私の側から見た甘い判断なのかも知れないが、そういう優しさに包まれての新聞連載であったのだが……無事完結して書籍化を手掛けてくれることになった編集者から「この作品、『妄執鬼』に続くものであるなら、なんと19年ぶりの物語になりますねー」と聞かされて自分でも仰天した。完結させたい、という思いは常に持ち続けていたものの、まさかそんなに間が空いたとは思ってもいなかった。それほど主人公たちはいつも私の胸の中に生きていた。19年も彼らから遠ざかっていたなど、こうして書いている今も信じられない気分である。
私より是雄をはじめとする仲間たちが活躍したくてうずうずしていたんだろうなー、と思ったら泣けてきた。
是雄たち、ありがとう。
君たちのお陰で私もまた作家に戻れたよ。礼を言うのは私の方である。
2023.06.07(水)