この記事の連載

 岸辺露伴は、荒木飛呂彦原作「ジョジョの奇妙な冒険」のスピンオフシリーズの主人公。人気漫画家で、相手を本にして生い立ちや秘密を読み、指示を書き込むこともできる、“ヘブンズ・ドアー”という特殊能力の持ち主です。

 劇場長編映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』で露伴を演じているのは、ドラマ「岸辺露伴は動かない」(1~3期)に引き続き、高橋一生さん。ロケ先のパリで感じたことや、特殊能力を持つ人物を演じる鍵となる「リアル/リアリティ」について、岸辺露伴というキャラクターから受けた影響など、あれこれお聞きしました。

» 【後篇】はこちら


岸辺露伴を演じて「騙す」ことの快感

――ドラマを長期にわたり演じられていた際に、「ずっと露伴が自分の中にいて抜けなかった」といった話をされていました。露伴は今も高橋さんの中に存在していますか?

 どこかにいると思います。先日バラエティー番組でも出てきました。露伴の大ファンだという中学生のお子さんに、「普段の一生さんの声って低いんですね。変えてるってことですか?」と聞かれたので、露伴の声で「そうだよ」と答えたら本気で驚かれました。リアクションが純粋で、可愛かったです。

 少年少女を騙せるということは、「最高に俳優だな」と感じます。僕はそれが憧れだったんです。しかも子供向けではなく、大人向けの作品と言われる『岸辺露伴~』で。それは、「俳優をやっていてよかった」と、今一番思えていることかもしれません。

――ご自身も子供の頃に“騙された”経験があるのでしょうか。

 たくさんあると思います。祖母が好きで見ていた『天地創造』や『シンドバッドの大冒険』なんて、ものすごく怖かったですから。バスター・キートンやチャーリーチャップリンも祖母が好きだったので、一緒に見て「かっこいいなキートン」と思ったことも、僕にとっては大いに騙された経験でした。

 さきほど、違うインタビュアーの方から「小学校6年生の息子が一生さんの岸辺露伴の大ファンで、『今日、一生さんに会うの怖くない?』と言われたんです」と教えてもらって。

――騙せてますね!

 「子どもってこんなふうに騙せるんだ」と、とても嬉しい気持ちになりました。テーマパークのキャストの方が優しいおかげで子どもたちが夢を見られるのと一緒で、何の忖度もない純粋極まりない部分に、僕たちの作る娯楽作品が刺さっていくことが、とても大事なことのような気がしています。

2023.05.25(木)
文=須永貴子
撮影=三宅史郎
ヘアメイク=田中真維(MARVEE)
スタイリスト=秋山貴紀[A Inc.]