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実験の結果「いい人ぶるのは止めました」

――露伴の特殊能力“ヘブンズ・ドアー”のシーンでも、高橋さんは「自分にはその能力がある」と自分を騙しながらやっているということですよね?

 そうです。けれど自分を騙して人と接することは、僕ら人間が普段からやっていることだと思いますよ。相手に対してちょっと怒ってみたり、ちょっと変な人を演じてみたりして、相手のリアクションを通してその人の人柄を見る。実際、この実験を僕はよくやっていて「この人ってこういうとき、こういうリアクションするんだ」と思ったらそれを芝居のストックにしていく。

 他者という存在を深く知る作業は、結局のところ自分がどう「解釈するか」だと思っています。露伴も、特殊能力を使いながらもやはり“本”に書かれた文章を読んで「こいつはこういう人間だ」と解釈しているんです。同じ本でも、別の人が読んだら別の解釈になるかもしれない。

――たしかに、唯一無二の答えが得られる能力ではないですね。

 こうして「僕らも普段からやっていること」という“リアル”に落とし込めるのは、露伴の能力に“リアリティ”があるからだと思います。そういうリアリティを常に意識して露伴のシリーズをやらせてもらっていますし、それは他のお芝居にも非常に生きてきている気がします。

――ちなみに高橋さんは他者に対してだけでなく、ご自身の見え方についても“実験”をしたことはありますか?

 もちろんいろいろと試してみました。人は他者を「こういう人」と定義付けたくなるものなので、いい人に見える振る舞いをしたら、いい人だと思われる。それがあまりにも単純で、つまらなかった。「いい人だと思われても、死ぬときにいい人生を生きたと思えるか」というと、絶対にそうは思えないなと思ったんです。40歳になる前、露伴をやる前ぐらいにそれを思い知り、いい人ぶるのは止めました。

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衣装クレジット

シャツ 42,900円/アルテリア(イーライト) パンツ 33,000円/ヨーク(エンケル) その他/スタイリスト私物

高橋一生(たかはし・いっせい)

1980年12月9日生まれ、東京都出身。映画、ドラマ、舞台と幅広く活躍。6月17日に開幕する舞台、NODA・MAP第26回公演『兎、波を走る』(作・演出 野田秀樹)への出演を控える。

映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』
2023年5月26日(金)ロードショー

演:高橋一生 飯豊まりえ / 長尾謙杜 安藤政信 美波 / 木村文乃
原作:荒木飛呂彦「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」(集英社 ウルトラジャンプ愛蔵版コミックス 刊)
監督:渡辺一貴
脚本:小林靖子
音楽:菊地成孔/新音楽制作工房
人物デザイン監修・衣裳デザイン:柘植伊佐夫
製作:『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』 製作委員会
制作プロダクション:アスミック・エース、NHKエンタープライズ、P.I.C.S.
配給:アスミック・エース
© 2023「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」製作委員会 © LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
https://kishiberohan-movie.asmik-ace.co.jp/

次の話を読む「なぜ山に登るのか?」と同じ答えを 『岸辺露伴』は教えてくれる。 高橋一生インタビュ―【後篇】

2023.05.25(木)
文=須永貴子
撮影=三宅史郎
ヘアメイク=田中真維(MARVEE)
スタイリスト=秋山貴紀[A Inc.]