この記事の連載

 子どもの教育のために日本を離れ、以降10年間、マレーシアで暮らす野本響子さん。著書の『東南アジア式「まあいっか」で楽に生きる本』では、さまざまなデータから日本の「生きづらさ」を読み解き、それとは対照的に幸福度高く生きる東南アジアの人々の考え方を紹介しています。なぜ日本は子どもがいてもいなくても「生きるのがしんどい」のか。なぜ一見不便で給与水準も低いマレーシアには楽しそうな人が多いのか。3児の母でもある担当編集・伊藤淳子(文藝春秋ノンフィクション出版部)と野本さんが、マレーシアに移住してわかった人生の楽しみ方を語りました【前篇】を読む)(【後篇】を読む

※この対談は2023年2月10日に行われた『東南アジア式「まあいっか」で楽に生きる本』刊行記念トークライブ「マレーシアのリラックスした社会で学んだ『人生の楽しみ方』」の内容を再構成したものです。


筆算の線を、定規を使ってまっすぐに引かせる教育

野本 今回の本に伊藤さんが「“教育”をぜひ書いてください」と言っていましたよね。どういう気持ちからなんですか?

伊藤 海外の教育についてもっと知りたいと思いました。日本では、たとえば私が子どもの頃は、算数の筆算の線を手書きでビーッと引いてましたが、今は定規を使ってまっすぐに線を引かないとだめなんですよね。

野本 何のためにやってるんですかね。

伊藤 すごく不思議だと思って。日本の公教育にはこうした“謎ルール”が結構あるんです。

野本 この本の最初のほうにも書きましたが、教育現場のルールがどんどん厳しくなっているように感じます。

伊藤 水着につけるゼッケンも細かい指示があります。5センチ×3センチの大きさの白い布で付ける。子どもが3人いると、3セット、毎年ゼッケンを付け替えないといけないんです。

野本 大変ですね。

伊藤 大変ですよ。学期ごとに机用と床用の雑巾をもっていくとか、毎日連絡帳に保護者が目を通して判子を捺すとか、毎週末、上履きを持ち帰って洗わなければいけないとか、学校によって違うと思いますが、やらなければならないことが多いと感じます。野本さんが発信するマレーシアは、教育環境や職場環境が日本とは全く違うと感じます。

野本 考え方そのものが違います。最近、大学院に入学して、改めて勉強をはじめました。教育学を学んでいるのですが、教育は大きく2つに分けられています。世界には、先生(教科)中心の「伝統的な教育」と、子ども中心の「進歩的な教育」があって、いまは「進歩的な教育」へと変化している時代なんです。日本の文科省がいくら「進歩的な教育」に変えようとしても、現場はなかなか変えられないというのが日本の現状なのだと思います。

伊藤 海外の教育と比べて、日本の教育が特殊だと思うのは、偏差値で受験する学校を決めたり、就職にしても大学名で採用されるところです。「何を学んだのか」ではないんですよね。今回の本で野本さんも書かれていますが、たとえばニュージーランドの学校には、時間割がなく試験もない。

2023.05.23(火)
文=文藝春秋