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子どもがいてもいなくても「生きるのがしんどい」

伊藤 働く環境も昔に比べればずいぶん良くなってきましたが、実際には子どもを持つことがハンディとして捉えられてしまう。私の場合は、育休から復帰していきなりものすごい忙しい部署に異動になりました。当時は「君は子どもがいるけれどちゃんと編集の仕事できるでしょ」みたいな、そういう風潮が20年くらい前はあったんじゃないかなと思いますね。上司は「子育て中の社員もちゃんと働かせて、マネージメントできてます」っていうことを示すことができていいでしょうけど、こっちはたまったものではありません(笑)。

野本 それは大変でしたね。

伊藤 保育園のお迎えがあるから、業務時間内に集中してやって、極力残業しないようにしていたら、「わりと早く帰ってるから余裕あるんじゃない?」って仕事を増やされたんです(笑)。勘弁してくださいよっていう時代でした。

野本 多くの子育て中の女性たちはそんな思いをしながら、むちゃくちゃ忙しい生活をしているんですよね。政府が、「異次元の少子化対策」と言っていますが、いま生きている人たちが大変そうなのもなんとかしたほうがいいと思うんですよね。

伊藤 日本人特有なのかもしれないですけれど、「自分が大変!」「忙しい!」って周りにアピールしないといけない雰囲気はいまだにあると感じます。

野本 「3日徹夜しちゃって」みたいな。

伊藤 「遅くまで会社に残っているほうがエラい」とか「子どもがいても残業も出張もガンガンやってます」とか。野本さんの勤め先でもありましたでしょ?

野本 私、そういうの気にしないんです。

伊藤 野本さんらしい(笑)。

野本 大変そうにしていないと怒る人たちがいるんですよね(笑)。

伊藤 そんなときに野本さんの文章を読むと、自分はそんな働き方できないし、「まあいっか」ってなるんですよ。

野本 それはうれしいですね。そういう方がいるとがんばって書こうかなってなります。子育てしている人以外の、独身で働いている人たちがすごくハッピーかというと、それもそうでもなくて大変そうですよね。

伊藤 子どもがいてもいなくても、生きるのがしんどいという世の中になってきた感じがあります。

「いじめに遭っても学校やめればよくない?」

野本 私はしんどかったとき、千葉敦子さんや桐島洋子さんの本をたくさん読んで、すごく心が休まりました。

伊藤 桐島洋子さんは文藝春秋の元社員で大先輩です。

野本 妊娠していることを会社に内緒にして、旅に出て船の上で出産したり、ベトナム戦争に行ったり。そんな破天荒な人がいるんだって驚きました。実は、会社を休んで海外に子連れで行くというアイデアは、桐島さんから拝借したんです。

伊藤 なるほど!

野本 桐島さんのように、ちょっと世の中からはみ出してる感じでリスクをとっている人がいると、「こういう風に考えればいいや」「自分もやってみようかな」と思えました。だからサラッと海外に移住することができたのだと思います。

伊藤 桐島洋子さんのようにサラッと海外へ。桐島さんに続きたかったです(笑)。日本では、同じ場所でがんばることに価値を見出しすぎなんじゃないかなと思うんです。

野本 マレーシアでは、子どもが学校を変えたいと言ったら、親は「いいんじゃない」っていう感じです。新しい学校ができると「みんなで見に行こうか!」って行くんです(笑)。

伊藤 日本では考えられない光景ですね。

野本 気がつくと、半分くらいの生徒がやめて新しい学校へ転校していくみたいな日常が普通にあるので、「いじめに遭っても学校やめればよくない?」みたいに言われます。

伊藤 それは気が楽になりますね。

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野本響子(のもと・きょうこ)

文筆家・編集者。95年アスキー入社。雑誌「MacPower」「ASAhIパソコン」「アサヒカメラ」編集者として主にIT業界を取材。1990年代よりマレーシア人家族と交流し、10年以上滞在。現地PR企業・ローカルメディアの編集長など経てフリー。著書に「子どもが教育を選ぶ時代へ」「日本人には『やめる練習』が足りてない」(集英社)「いいね!フェイスブック」(朝日新聞出版)ほか。早稲田大学法学部卒業。

伊藤淳子(いとう・じゅんこ)

1991年、文藝春秋入社。週刊文春編集部、別冊文藝春秋編集部、第二文藝部、文春文庫編集部など雑誌・書籍の編集部を経て、ノンフィクション出版部。

東南アジア式「まあいっか」で楽に生きる本

野本響子
定価 1,540円(税込)
文藝春秋
2023年2月6日発売
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次の話を読むマレーシアの子どもたちが受けている メディア教育。「CNNを見てどこが スポンサーか、分析するんです」

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2023.05.23(火)
文=文藝春秋