3年ぶりの復帰作にノワール作品を選んだ理由
そんな彼の最新作が、兵役を経て約3年ぶりの復帰作にして、韓国で昨年大ヒットを記録したドラマ『ビッグマウス』。
イ・ジョンソク演じる三流弁護士パク・チャンホが、凶悪な天才詐欺師“ビッグマウス”にでっちあげられ、濡れ衣で苛酷な監獄に収監。生き残るため、家族を守るために巨大な陰謀を暴いていく、ノワール作品だ。
頼りない、いまどきの若者が極限に追い詰められ、変貌していくさまを見事に演じきり、イ・ジョンソクは、昨年末に韓国で授賞式が行われた「2022MBC演技大賞」で、男優として史上初の2度目の大賞に輝いた。
「今作のオ・チュンファン監督は2017年のドラマ『あなたが眠っている間に』でもご一緒し、人間的にも信頼している友人なんです。撮影前、彼に言われたのは『現実離れしたストーリーだけど、つくられた演技はしないでほしい』というリクエストでした。でも台本を読んでみると、僕の人生経験では想像もつかないようなシーンの連続で……。
今回は共演者やスタッフの方々に『これはどう演じたらいいでしょうか』と相談して、沢山助けていただいたんです。特に監獄のシーンで共演している年上の俳優さんたちには、可愛がっていただきました。久しぶりの作品でどういう評価がされるか不安だったんですが、良い評価をいただけて、ほっとしているところです」
どんな質問にも、決してはぐらかさず、時折恥ずかしそうな笑みを浮かべながら、真摯に言葉を紡いでいく。共演者やスタッフに愛されるのも納得だ。
だが意外にも、20代の頃は自分の穀に閉じこもっていたのだという。
「訳のわからないことを言うとお思いでしょうが(苦笑)……そもそも僕は、子どもの頃から大変な恥ずかしがり屋で、実はいまも人前に出るのが苦手なんです。じゃあ、なぜ俳優になんてなったんだという突っ込みが聞こえてきそうですが、一方で僕は人に愛されることがすごく好きで(笑)。中学生の頃には、俳優になりたくて仕方がありませんでした。
ただ、僕は俳優になりたくて15歳のときに芸能事務所に所属したのに、演技をやらせてくれると思っていたら、そこはモデル事務所だったんです。仕方なくモデルとして活動して、やっと初めてのドラマ『検事プリンセス』に端役で出させてもらえたのは5年後でした。もう20歳になっていました」
しかも、そこで真っ先に感じたのは、挫折だった。
「あれほど演技をしたいと思っていたのに、いざ演じてみたら何も準備が出来ていなかったことに気が付いてしまった。下手ながら、自分が出来ていないということはわかるんですよね。しかも20代の頃の僕は、その恥ずかしさを隠そうとしてしまいました。
以来、知らないことを知っているフリをして、月日を重ねてしまった。自分が出来ないということを曝け出せるようになったのは、兵役を終えて30代になってから。『ビッグマウス』の撮影が初めてなんです」
2023.04.07(金)
Photographs=KIM HEE JUNE @CO-OP.
Styling=LEE HYE YOUNG @ALL ABOUT STYLE
Hair=MOON HYUNCHEOL @Blow
Make-up=GANGMI @Grin by GANGMI
Coordination=NAM HYUNJI @neos inc.