患者さんは決して孤独じゃない
おかざき 今回、初めて不妊治療を舞台に漫画を描かせていただいていますが、難しいのは、漫画って、不妊治療をしている人だけが読むものではないんですね。何も考えたくない人が、何も考えないようにするために読むのが、漫画だったりもしますから。
ですから、まずは、不妊治療というものがあって、それを受けている人が世の中にはたくさんいるという事実を知ってもらいたい、そんなささやかな願いのもと描いています。不妊治療をしている人が、自分の周りにもいるんだということを知れば、会社の上司にもきっと相談しやすくなりますよね。「ちょっと、こういうわけで、午前いっぱい休むことが多くなるかもしれません」となったときに、周りも受け入れやすくなると思うんです。
漫画的には、不妊治療のうんと浅いところを描いていると思うのですが、まずは知ってもらうことが大事なのかなと思っています。
石川 「浅い」と謙遜されていますが、僕はかなり真髄を描いてくださっていると思っていますよ。今回、漫画のなかで、妊娠判定で陽性の結果が培養室のモニターに映し出されたとき、培養士みんなで「よし」と喜んでいる姿を描いてくださいましたよね。この場面は僕にとって、とても印象深い、嬉しい場面でした。実はこの場面って、患者さんには見えないのですが、培養室で毎日のように繰り広げられているんです。
たくさんのお金と時間を費やす不妊治療は、患者さんにとってきっと大きなストレスのはずなんです。なかには、当然、希望が叶わない方もいらっしゃいます。でも、決して患者さんは孤独じゃない。胚培養士というプロフェッショナルをはじめ、医師、看護師、受付スタッフみんなが本気で患者さんと向き合い、全力でサポートしている。妊娠判定が出たときは、携わった我々全員が喜んでいる。そんなメッセ―ジが漫画を通して伝わると、不妊治療をしていても、誰一人アンハッピーじゃないのかなと思っています。
2023.01.30(月)
文=内田朋子