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「避妊」メインの性教育でいいのか

石川 患者さんの数だけ正解がありますからね。ただ僕が一つ課題に感じているのは、患者さんが最終的に下した選択に「納得」を感じてもらうには、今の日本の教育は偏り過ぎているという点です。

 今の学校教育における性教育は、望まない妊娠を避けるための教育に偏っていて、妊娠するためのプレコンセプションケア(将来の妊娠を考え、カップルが自分たちの生活や健康に向き合うこと)の教育が行き届いていないと感じています。

 1985年に男女雇用機会均等法が施行され、そのころ小学生から中学生にさしかかるぐらいで、現在48、49歳の第二次ベビーブームの女性の多くが、短大ではなく四年制大学を選択し、社会でのキャリアを求めるようになりました。

 当時、何歳までだと妊娠しやすいとか、流産しにくいといった教育も同時に行われていれば、納得してキャリアの選択もできたでしょう。ところが、そういった知識がないままキャリアを求め、ある日突然、「実は年齢を重ねると妊娠しにくい」という現実を突きつけられてしまった。今そんな状況なんですね。

おかざき まさに石川先生からその話を伺い、教育の大切さを漫画でも取り上げさせてもらいました。

 私の時代も、四年生大学に行くと行ったら「なんで?」と言われてた時代でした。女の子は短大に行かないと、結婚できないと。でも、「普通に勉強したいじゃん」って思って、やりたい方向にどんどん進んでいったら、正社員として入社はできましたが、妊娠への知識はほとんどなくて。本来は、そうした知識をもったうえで、選択していくのが一番美しいのでしょうね。知識は本当に武器になるので。

石川 きっと、『胚培養士ミズイロ』を読んで初めて、妊娠や不妊に関する知識に触れる読者もとても多いと思います。今回、男性誌でこの漫画を取り上げる意味は、そこにすごくあると。「教育」という大上段に構えるのではなく、面白くて読み進めるなかで、しっかり妊孕性(にんようせい、「妊娠するための力」のこと)の知識もついていく。ある人にとっては卵子凍結も一つの選択肢になるでしょうし、もちろん、子どもを持たないという選択肢もあるでしょう。知識があれば、その先の選択も納得して選べるのではないかと思っています。

おかざき そうですね。私も娘が二人、息子が一人いますが、多分、性にまつわる話を、おかあちゃんから聞くのって、子どもは嫌だと思うんです。と言いつつ、精子は温めるとよくないと知ったので、さりげなく息子のパンツをボクサータイプだけじゃなくて、ブリーフも選べるよう置いたりとかしていますけどね(笑)。

 ただ、親から性の話を伝えると、かえって反発する部分もあると思うので、漫画で知るというのは一つルートとしてはいいんじゃないかなと思います。ただ、やはり漫画であって教科書ではないので、興味をもったら、自分で、ちゃんと情報を取りに行って欲しいですね。

2023.01.30(月)
文=内田朋子