この記事の連載

 コウノトリが運ばない命を、たぐり寄せる職業だ――。自らの手で精子と卵子を導く胚培養士。そんな不妊治療の現場で働くスペシャリストたちを描いた、漫画『胚培養士ミズイロ』の第1巻が1月30日発売されます(※書店により発売日は前後します)。

 「青年誌に不妊治療をテーマにした作品が」と連載開始から話題となった本作に挑むのは、『サプリ』『&』などで知られるおかざき真里さん。なぜ胚培養士を描くのか? 作品の舞台に青年誌を選んだ思いとは? 医療監修を務める男性不妊治療のトップランナー、リプロダクションクリニックの石川智基医師と、不妊治療の“現在”を語り合います。(インタビュー【後篇】を読む)

胚培養士が患者に直接説明するクリニック

おかざき 『週刊ビッグコミックスピリッツ』で新たな連載を始めるにあたって題材を探していたら、担当編集者から「胚培養士はどうですか」と提案されたんです。理系出身の彼女は、大学で受けた薬学の授業で胚培養士の存在を知り、いつか漫画に取り入れたいと思っていたと。

 私自身、結婚が32歳と当時にしては遅めで順調に子どもを授かるか不安でしたし、いざ出産してみると不妊治療をしていた人が実は周りに沢山いることを知ったんですね。だけど、不妊治療は他人事ではなく自分のすぐ隣にある治療にも関わらず、実際は何も知らない。もし不妊治療をテーマにした漫画があるなら、私自身が読みたいと思ったんです。

 そこへ胚培養士という、人の生命の源を扱う職業があることを聞かされて、これはもう絶対にタイトルに入れたいと思いました。

石川 確かに胚培養士って、世間一般にはあまり知られていない職業ですよね。でも、卵子と精子を受精させ、受精卵を着床前の段階にまで成長させるのは胚培養士の仕事で、その技術力によっては、不妊治療の成績をも左右する。胚培養士は、不妊治療の心臓部といっても過言ではないんです。

 僕が10年前に立ち上げた不妊治療のクリニックは、胚培養士と立ち上げたようなものなんですよ。当時の胚培養士は縁の下の力持ちという日影の存在で、海外の培養士と日本の培養士の地位があまりに違っていました。

 日本の不妊治療では前面に立つのはいつも医師。結果が良くても悪くても、患者さんには医師が説明することがほとんどですが、僕は、配偶子(精子と卵子)のプロフェッショナルである胚培養士こそが、患者さんに卵子や精子、受精卵の状況について説明すべきだと思っていたんです。実際、当院では胚培養士が患者さんに受精結果の説明を行ってますから、医療監修のお話をいただいたときは、もううちしかないだろうと(笑)。

2023.01.30(月)
文=内田朋子