外見も特異で、身長百七十五センチ弱の痩せ形ながら、肩幅が異様に広く、〈キャバレーの、立て看板のよう〉で、手も身体の割にかなり大きく、骨太で逞しい。年齢は三十代後半。〈広い額と薄い眉の下で、引っ込んだ目が洞窟にひそむ猛禽のように、ぎらぎら光っている。細くとがった鼻梁と、一本の線のように結ばれた薄い唇が、酷薄な感じを与える〉
お世辞にも二枚目とはいえないが、かなりの洒落者で、〈グレイのチェックのスーツに身を包み、ダークグリーンのペイズリのネクタイを締めている〉
トレンチコートも着こなす、ハンフリー・ボガートもかくやの実にダンディな都会派の刑事なのである。ところがやることは、ひたすらえげつない。
渋谷の暴力団[渋六興業]に取り入ったハゲタカは、新宿を拠点に縄張りを広げようとする南米マフィア[マスダ]を挑発し、悪知恵と権謀術数の限りを尽くして渡り合う。その言動は常に傲岸不遜で自信に溢れ、躊躇、後悔の類は一切無い。
普通、暴力団と癒着し、カネを受け取る刑事は卑屈になるものだが、ハゲタカはその逆。愚かなおまえらが生きていけるのは賢いおれのおかげ、とばかりに幹部連中をあごでこき使い、罵声を浴びせ、時に暴力を振るい、下僕のごとく扱う。
ハゲタカが華々しく(?)登場した『禿鷹の夜』に、[マスダ]が送り込んだ凄腕の殺し屋を捕らえ、渋六の幹部水間と共にリンチを加えるシーンがある。
ハゲタカの暴力は容赦がない。猛烈なケンカキックに恐れ戦(おのの)いた極道幹部が「その勢いで頭を蹴ったら、死んじまいますよ」と止めに入ると、ハゲタカはこう嘯(うそぶ)く。「頭を蹴られたやつは、蹴ったやつに頭が上がらなくなる」。もう、どっちが極道か判らない。
実際、水間は、殺しを屁とも思わぬハゲタカのド迫力に、蛇に睨まれた蛙状態である。彼はこう述懐する。
〈極道の世界にはいってずいぶんたつが、禿富のような男に出会ったのは初めてだった。やくざの無鉄砲さや、度胸とかいったものとはまったく無縁の、恐ろしい冷血漢だ〉
2023.01.05(木)
文=永瀬 隼介(作家)