河﨑 琴美も真剣に相手を探そうというのでなく、ちょっと息抜きで使ってみたかったんでしょうね。私はマッチングアプリを使ったことがないので、ああいう書き方でよかったのか分かりませんが……。
ただ、周りの人に介護をしていると言うと「えー、偉いね」と言われながらも一歩距離を置かれるのは、私も経験があります。たとえ相手はそうは思っていないとしても、自分のほうが引け目を感じてしまう。
——そうした琴美の日常の変化も面白く読みました。父親の介護に関しては、琴美は、この先親の排泄の世話ができるかということも考えるようになりますが、ここは本当に自分ならどうだろう、と考えさせられました。
河﨑 子供ならオムツの期間はせいぜい数年ですが、親の介護の場合はそれが10年続くかもしれない。私自身、いつ終わるか分からないまま父親の排泄の処理をする日々はなかなか辛いものがありました。それに、田舎でデイサービスやショートステイをお願いすると、職員に自分の同級生や、同級生のお母さんがいるんです。最後は完全に割り切りましたが、最初は、同級生に自分の父の尻を拭かせるのかと葛藤がありました。そういった状況をリアルに想像した琴美が「嫌だ」と感じて、それなら施設に預けてしまったほうが心理的に楽だと考えたのは、正直な気持ちだろうと思います。
——介護される側の尊厳を傷つけないことも大切ですが、難しい部分もありますね。
河﨑 そうした問題もありますね。介護現場で父を赤ちゃん扱いする人がいて、私も最初は内心憤っていたんです。でも次第に「しょうがないな」と思うようになりまして。そう接していたほうが介護する側の気持ちが楽ならば、それでよいかもしれないな、と。家族としては悔しくはあるのですけれど、そうすることによって介護する側が落ちついて介護できるのであれば、そこは目をつぶろうと思いました。
家庭内介護であっても仕事としての介護であっても、介護される対象のことを第一に考えねばならないのは大前提ですが、それでも、介護する側が何もかも捧げなければならないのか、ということは改めて考えなければいけないと思います。
2022.12.23(金)
インタビュー・構成=瀧井 朝世