介護に「Aランク」なんてない
——父親の意外な一面を知ったり、推し活に変化があったりと、いろんな意味で起伏のある日常が、淡々と、時にユーモアも交えて描かれて、暗くない。この読み心地はどのように意図されましたか。
河﨑 介護という致し方ない現実を抱えながら、どうやって生きていくのか。あまり悲観的にならず、むしろ読んでいてちょっと気持ちが上向きになるぐらいを目指したいな、という気持ちがありました。
でも、介護をすると人生が豊かになる、とはやっぱり言えない。本当に大変なので、やらないに越したことはないと思います。もしプラスなことがあるとすれば、「投げ出さずにやることができた」という自己満足を得られることくらい。「やれることはやった」と思えるのは、介護者にとっては結構大きいことなんです。
タイトルの『介護者D』は、主人公が、妹はずっと成績がAランクなのに自分はDランクだった、介護においても自分はDランクだと思っているところから発想したものですが、でも最後、Dプラスくらいには頑張っている、と思えるようになってほしいなと。
ついでにいえば、介護にAランクってないと思うんです。どんなにお金をかけて最高の環境を用意して、本人の望みをすべて叶えたとしても、介護する側には絶対に後から「もう少しこうできたのではないか」「違う道があったのではないか」という後悔が生まれてしまう。だからといって自分で自分を責める必要はない。Bプラスが満点、くらいに考えればよいのではないでしょうか。
——実体験をベースにフィクションを書かれるうえで、意識したこと、注意したことはありましたか。
河﨑 実体験のなかからどんなことを抽出するかは慎重に取捨選択しました。現実に介護をしていると、本当に嫌なこと、理不尽なこと、悲しいことをたくさん経験するんです。それを100%投影したわけではないですし、ひとつひとつ程度や形を変えながら物語の中に織り込んでいきました。
2022.12.23(金)
インタビュー・構成=瀧井 朝世