河﨑 そうですね、あれを書いた時がちょうどもっとも大変な時期でした。

——河﨑さんというと、北海道の歴史や自然を題材に大きな物語を描かれる方というイメージもあって、どれも詳細な記述が印象的です。

河﨑 学生時代のアルバイトでの経験が大きいのかもしれません。制作会社で官公庁の資料収集とアーカイブ化のお手伝いをしていたので、北海道の市町村の歴史資料に触れる機会が多かったんです。自分が暮らす土地にどんな歴史があり、そこにどれだけの人の苦労が刻まれているのか。「ここでこういうことがあったのか」「ここでこの産業が発展してこういう町になったのか」と、調べているうちにどんどん知識が繫がっていく感覚がありました。それがすごく面白かったし、そこに物語の種があったので、掘り下げていった感じです。

 
 

——『土にあがなう』なども北海道各地の産業を扱った短篇集で素晴らしかったですし。ただ、今後は北海道だけでなく、いろいろな場所を舞台にして書いていきたいそうですね。

河﨑 そうですね。これまでは介護がありましたし、羊も飼っていたのでなかなか家を空けられなかったのですが、思い切って実家を出て、専業作家にもなったので、これからは取材にもどんどん出向こうと。さっそく行こうと思っていた矢先にコロナ禍が始まったので、まだ実現できてはいないんですけど。

——初期の頃から的確で簡潔な描写や硬質な文体が魅力でしたが、どこで文章力を磨いたのでしょうか。

河﨑 自分では分からないですね……。いろんなところで中島敦なかじまあつしが好きだと言っていますが、彼の文体を意識的に取り入れたということもないですし。単に私が、文体でぶん殴ることが好きなのかもしれません。

——文体でぶん殴る?

河﨑 私は読み手として「握力の強い」文章が好きなんですよね。特別な言葉を使っているわけではないのに、引きずり込まれることってあるじゃないですか。自分が書く時も、自然とそういうものを目標にしている気がします。

2022.12.23(金)
インタビュー・構成=瀧井 朝世