介護については、本当に各家庭によって事情が異なりますから、一般化することはできないですよね。たとえば男の人がお母さんの介護をする話だと、また違う辛さが出てくると思うんですよね。

——あ、確かに息子が母親を介護するとなるとまた違いそう……。

河﨑 その設定でと言われたら、もちろん書くことはできるでしょうが、今回よりももっと想像で書く部分の比率は上がるでしょうね。読んでみたいので、誰か書いてくれないでしょうか。私は今のところは「あー、介護について書くのはもういいや」という気持ちでいっぱいなので(笑)。

 
 

どん底状態から摑んだデビュー

——河﨑さんはもともと本が好きで、学生の頃から小説を書いていたけれど、「まだ人生経験が足りない」と思って一旦、執筆をやめたそうですね。そこから羊飼いとなり、30歳目前になって「そろそろ書くか」と再開されたとのことですが、そうしてある程度の年齢になるまで待ってよかったと思いますか。

河﨑 自分にとってはベストなタイミングだったのだろうと思っています。

 30歳手前で応募作を書いて北海道新聞さんに送って、その選考結果が出る直前に父が昏睡状態になったんです。「最終選考には残ったけれど今回は残念でした」という連絡を受けとったのは、父の介護が一番大変な時期でした。

 最終選考に残していただいたこと自体は嬉しかったのですけれど、落選の報にはやっぱりちょっと絶望しまして。私生活がそんな状態で、長年の夢も花咲かなくて、本当に打ちひしがれました。でもその時に、「たぶんこれは、ここから上がっていけということだ」と思ったんですよね。家の仕事と父の介護でてんやわんやの状態の間も、そう思いながら書き続けました。

——そうして2012年に「東陬遺事とうすういじ」で北海道新聞文学賞を受賞し、14年には『颶風ぐふうおう』で三浦綾子みうらあやこ文学賞を受賞して。『颶風の王』は北の地と馬と人間の、数世代にもわたる物語ですよね。そんな生活のなか、あの素晴らしい、重厚な長篇を書かれたのだなあと思って。

2022.12.23(金)
インタビュー・構成=瀧井 朝世