河﨑 『小説トリッパー』での連載中にコロナ禍が始まったので、現実に合わせました。現代を舞台にしているのに、コロナに触れないのは不実だろうなと感じたんです。

 実際、介護の現場にもコロナは大きな影響を与えていますよね。デイサービスに通っていたのに、施設が閉鎖されて一時的に通えなくなったり、ひまわりクラブのような集まりもなくなったり。そうしたことが現実にたくさん起こっていたので、小説の中にも反映させました。

 琴美の場合、「推し活」にも変化があります。もともと地方民は追っかけをするにしてもすごく不利ですが、コロナ禍だとさらに動きが取れなくなってしまう。それはストレスになるだろうと。

——琴美が、同級生だったエイコちゃんと会う場面もリアルだなと思いました。マスクを着けている琴美の前にマスクなしのエイコちゃんがやってきて、「コロナなんて、風邪と同じ」と言い放つ。実際、コロナ禍で、いろんな人が少しずつ違う考えを持っているんだなと実感しましたが、河﨑さんもそうでしたか。

河﨑 そうですね。私はコロナ禍になった時は実家から離れて暮らしていたのですが、もし介護をしている時にコロナが流行していたらどうなっていたかなと考えるんです。コロナに関する考え方や捉え方、対処の仕方は人それぞれで、それは医療現場、介護現場でも同じです。医学的な正解はあるかもしれませんが、それで個々人の感情を規定したり、ましてや断罪することはできない。作中ではエイコちゃんを「脱マスク」の人としていますけれども、そのことの善悪ではなく、誰だって自分とは相容れない価値観の人はいる、ということを書きたかったんです。

——エイコちゃんは独善的なところがあって、琴美の意思を確認せずにマッチングアプリを勧めてきますよね。私は「また余計なことして」と思ったんですが(笑)、琴美はアプリを活用します。そして、アプリで出会った男性に親の介護をしていることを伝えたら、相手が引いてしまう。というか、琴美はそう感じてしまう。

2022.12.23(金)
インタビュー・構成=瀧井 朝世