——琴美の心理に関して興味深かったのは、介護用品ショップの店員に慣れた様子で応対された時、親の介護を「よくあること」だと言われて不快に感じるというシーンです。
河﨑 ここは実体験に基づいて生まれたものですね。父親が倒れていつ亡くなってもおかしくないという状態で入院先に通っていた半年間は、家族みんな精神的にどん底でした。そんな中、ショッピングモールに行くと、周囲の人たちが楽しそうに買い物をしている。すごく狭いものの見方なのですが、その時「うちの父が死にかけているのになんでみんな笑っているのだろう」と不公平感を抱いたんです。もちろん、ショッピングモールで楽しそうにしている人にもそれぞれの事情があるだろうし、うちの父の病気は彼らにはまったく関係ありません。醜い感情だと分かっているし、自分でも認めたくなかったけれど、どうしても拭い去れないものがありました。
もしもそうしたタイミングで他の人に「よくあること」みたいに言われたら、私はたぶん怒っていたと思います。実際にそんなこと言う人はいなかったですけれど。言われるタイミングによって、受け取り方って変わってくる。琴美が介護用品ショップでイラッとしたのは、そうしたタイミングだったんですよね。
——でもその後、ひまわりクラブに参加して、いろんな参加者の介護の話を聞いているうちに、気が楽になる。その変化が印象に残りました。そこには、彼女にとって介護が日常になっていったという部分もあるのでしょうか。
河﨑 そうですね。時間とのバランスはあるだろうと思います。家族の病気を受容する、反発したり否定したりしながら生活の中に組み込んでいくのはやっぱり時間がかかることですし。ひまわりクラブに参加すると決めたのは、琴美にとってよいタイミングだったんでしょう。
コロナ禍の介護事情
——作中ではコロナ禍の様子も描かれています。この小説を書き始めた時はまだコロナ禍になる前でしたよね。
2022.12.23(金)
インタビュー・構成=瀧井 朝世