地元愛のあるお客様が多い

 啓文堂書店三鷹店は、スーパーの上階という立地からか、お子様連れの若いファミリーやシニア、しかも買い物のついでや、会社帰りにちょっと寄るお客様が多い。「わざわざ本を買いに来るのではなく、立ち寄って目にとまった本をお買い上げいただくのがうれしい」と、書店員、西ヶ谷由佳さんはいう。太宰治はもちろん、三鷹や中央沿線ゆかりの作家やマンガ家、舞台にした本に目を配り、特設コーナーを作っているが、地元愛のあるお客様が多く、よく手に取ってもらえるとのこと。三鷹ゆかりの芸人、又吉直樹さんの本を手にとって、著者近影に「三鷹にて」と書いてあるのを見ただけでお買い上げのお客様もいるという。

桜桃忌(6月)からの特設コーナーだが、今年はいい本が入って現在も継続中
今年の太宰治賞は、『さようなら、オレンジ』
隣は、これも地元の三鷹の森ジブリ美術館関連で、ジブリ本
啓文堂文芸書大賞
ノミネート作12冊を啓文堂チェーン全店で陳列し、売上トップの作品を大賞に選ぶ
候補作フェアは10月いっぱい、11月には大賞作品を中心に展開

 もちろん、地元の本ばかりではない。啓文堂チェーンでの文芸書大賞のフェアや西ヶ谷さんが「大好き」という本屋さんの本ばかりを集めたコーナー、アルバイトさんも書いているという思いのこもったPOP、そんなに大きな売り場ではないけれど、本好きならきっと気に入る本屋さんだ。棚のそこかしこに文芸担当の西ヶ谷さんの趣味が出ているとのことだが、楽しんで本を並べているのが伝わるのだろう、フェアの本もハードカバーの文芸書も堅目の人文書もきちんと売れる、本を媒介してお客様と相思相愛の本屋さん。地元の人だけにこの空間を独占させてはもったいない。

オススメ本『東京百景』とともに、西ヶ谷由佳さん
本と本屋さんをこよなく愛する書店員さん。啓文堂書店三鷹店では文芸書を担当

【CREA WEB読者にオススメ】
 太宰コーナーから、太宰好きとして知られる芸人、又吉直樹さんの『東京百景』(ヨシモトブックス)。偶然、三鷹の太宰の旧宅跡に下宿していたという又吉さんの、三鷹をはじめ、吉祥寺、下北沢、原宿、雑司ヶ谷などなど、東京の各地を題材にした連作エッセイ。同じ土地を語っていても、又吉さんの目を通じてどこか幻想的に語られる不思議な感覚が大好きと、西ヶ谷さん。本屋さんを旅するこの連載の第一回に、この本をご紹介いただいたのは、うれしい偶然だ。

小寺 律 (こでら りつ)
本と本屋さんと、お茶とお菓子(時々手作り)を愛する東京在住の会社員。天気がいい週末には自転車で本屋さん巡りをするのが趣味といえば趣味。読書は雑読派、好きな作家は、小川洋子さん。

Column

週末の旅は本屋さん

新幹線や飛行機に乗らなくても、いとも簡単に未知のワンダーランドへと飛んでいける場所がある。それは書店。そこでは、素晴らしい知的興奮に満ちた体験があなたを待つ。さすらいの書店マニア・小寺律さんが、百花繚乱の個性を放つ注目の本屋さんへとナビゲートします!

 

2013.10.05(土)