この映画が、今世界で起きていることを連想させるという皮肉
――劇中で実写の記録映像が何度か挿入されますよね。それらを見ていて、奇妙な気持ちになりました。特に衝撃的だったのは、モスクワで初めてマクドナルドが開店した日(1990年1月)の記録映像です。なぜなら私たちはつい最近、ロシアのウクライナへの侵攻を機に、ロシア国内のマクドナルドの店舗の閉店が決まり、人々が店に殺到するというニュース映像を目にしていたからです。
悲しいことに、まさに今世界で起きていることを連想させる作品になってしまいました。ウクライナだけでなく、去年の夏からアフガニスタンで起きていることについても同じです。30年前の記録映像が、皮肉にもまるで現在のニュースのように見えてしまうんです。
マクドナルドのシーンは、そのときアミンがモスクワにいた、という個人的な経験を表現したかったのと同時に、この物語がいかにグローバルな物語であるかを表現したくて挿入しました。アメリカとソ連の間の冷戦の名残がまだあるなかで、モスクワでは資本主義が勝利しマクドナルドが開店した。それがあの時代だった。
ところが今、再び同じような対立構造が明らかになってしまった。紛争や戦争は絶対に起きてほしくないのに、不幸にも歴史は繰り返されてしまう。本当に悲しく思います。
――監督は、今後もアニメーションを取り入れた制作を続けていく予定ですか?
今あたためている企画の中には、実写作品とアニメーション作品の両方があります。今回実際に試してみておもしろいと感じたのは、アニメーションを使えば、実写とはまた別の形で、より詩的に感情を表現できるという点です。
映像作家として、僕はつねにオープンな考え方をしていたい。アニメだろうが実写だろうが、自分が語りたいストーリーに合ったフォーマットで、伝えられるようにしていたいと思います。
ヨナス・ポヘール・ラスムセン
1981年生まれの、デンマーク/フランス人映画監督。2006年にTVドキュメンタリー「Something About Halfdan(原題)」でデビュー。2012年の長編映画デビュー作『Searching for Bill(原題)』はドキュメンタリーとフィクションのミックスで、CPH:DOXでNordic Dox賞を受賞。DocAvivでは国際コンペティション賞も受賞している。本作『FLEE フリー』は2021年のサンダンス映画祭でワールド・シネマ・ドキュメンタリー部門のグランプリを獲得するほか、第94回米国アカデミー賞で史上初となる国際長編映画賞、長編ドキュメンタリー映画賞、長編アニメーション映画賞の3部門への同時ノミネートを果たした。
映画『FLEE フリー』
公開:2022年6月10日(金)新宿バルト9、グランドシネマサンシャイン 池袋ほか全国ロードショー
監督:ヨナス・ポヘール・ラスムセン
2021年/デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、フランス合作/シネスコ/カラー/89分/5.1ch/G/原題:Flugt 英題:FLEE/日本語字幕:松浦美奈/後援:デンマーク大使館 配給・宣伝:トランスフォーマー
公式HP:https://transformer.co.jp/m/flee/
公式Twitter:@FLEE_JP
2022.05.31(火)
文=月永理絵