写真漬けの12年で培われた現場力と守備範囲の広さ

文藝春秋在籍時、日系ブラジル人を長期的に撮影。2004年にブラジル・サンパウロで開かれた写真展より。
文藝春秋在籍時、日系ブラジル人を長期的に撮影。2004年にブラジル・サンパウロで開かれた写真展より。

 文藝春秋写真部に在籍中は休む暇もなく撮影に次ぐ撮影。週刊誌の張り込みからタレントや文化人のポートレート、スポーツに料理、建築、ブツ撮りとあらゆる現場に駆り出された。

「雑誌によって撮影対象も撮り方も別もの。毎日、知らない場所に行けて、いろんな写真を撮れるのは役得でしたね」

夜の街を駆け抜ける「ラスベガス・ロックンロールマラソン2014」。渡米後、文藝春秋に企画書を出して取材撮影を行い「Number Do」に掲載。
夜の街を駆け抜ける「ラスベガス・ロックンロールマラソン2014」。渡米後、文藝春秋に企画書を出して取材撮影を行い「Number Do」に掲載。

 好奇心旺盛な彼女にはうってつけの職場。ただ、変化が多いとはいえ、経験を重ねるうちルーティン化していくのは否めない。

「自分の中に慣れを感じた時、新しいことにチャレンジしたい気持ちが湧いてきました」

 写真部には独立する人間も少なくない。その中の1人、ロンドン在住の後輩の仕事ぶりを見て山田さんの心は決まった。

N.Y.タイムズ・スクエアで2015年、語学学校の友人と観光旅行。
N.Y.タイムズ・スクエアで2015年、語学学校の友人と観光旅行。

「好きなところに住んで、好きな写真を撮って腕1本で稼ぐ。そんな生き方もアリなんだ! って」

 当時36歳。撮影の経験は十分に積んだ。独身で子どももなし、両親も元気。身軽に動くには今がベストなタイミング。勤続12年の間に貯めた預金もあった。目指すはアメリカ。ハードな撮影仕事の後、英会話教室に通って準備も万端。2014年、山田さんの姿はフィラデルフィアの語学学校にあった。

2022.04.09(土)
Text=Mutsumi Hidaka
Photographs=Mami Yamada

CREA 2022年春号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

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