写真漬けの12年で培われた現場力と守備範囲の広さ
文藝春秋写真部に在籍中は休む暇もなく撮影に次ぐ撮影。週刊誌の張り込みからタレントや文化人のポートレート、スポーツに料理、建築、ブツ撮りとあらゆる現場に駆り出された。
「雑誌によって撮影対象も撮り方も別もの。毎日、知らない場所に行けて、いろんな写真を撮れるのは役得でしたね」
好奇心旺盛な彼女にはうってつけの職場。ただ、変化が多いとはいえ、経験を重ねるうちルーティン化していくのは否めない。
「自分の中に慣れを感じた時、新しいことにチャレンジしたい気持ちが湧いてきました」
写真部には独立する人間も少なくない。その中の1人、ロンドン在住の後輩の仕事ぶりを見て山田さんの心は決まった。
「好きなところに住んで、好きな写真を撮って腕1本で稼ぐ。そんな生き方もアリなんだ! って」
当時36歳。撮影の経験は十分に積んだ。独身で子どももなし、両親も元気。身軽に動くには今がベストなタイミング。勤続12年の間に貯めた預金もあった。目指すはアメリカ。ハードな撮影仕事の後、英会話教室に通って準備も万端。2014年、山田さんの姿はフィラデルフィアの語学学校にあった。
2022.04.09(土)
Text=Mutsumi Hidaka
Photographs=Mami Yamada